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その間にもデクランは自分で立ち上がってしまう。
(折角、デクランに触れるチャンスが……)
「ごめんなさい……今、僕の手は汚れているので。気を悪くされましたか?」
「……………」
「その、折角の気遣いを……申し訳ございません」
貴族の令息とは思えない控えめで慎ましい態度と此方を気遣う言動。
相手の顔色……というよりはリリアーナの動かない表情から何を思っているかを察する観察眼。
(ーー素晴らしいのよ!デクランはッ)
しかしリリアーナが折角手を伸ばしたのにも関わらずに断ったデクランに腹を立てた侍女達は「信じられない」と怒っている。
恐らく、リリアーナの手が汚れでもしたら、もっと怒るのだろう……騒ぐ侍女達に片手を上げて黙るように制す。
それだけで侍女達はピタリと動きを止める。
リリアーナが幼い頃から側にいる侍女達は良くも悪くも過保護である。
そんな侍女達は、普段から何も言わないリリアーナの為にと必死で動くのだが、それが良い方向になる時もあれば、悪い方へと流れる事もある。
(問題は山積みね……)
しかし、今は侍女達の躾は後だ。
バサリと扇子を広げてからニヤける口元を隠す。
恐らく眼鏡を探して焦っているであろうデクランに、先程、足元に転がってきた眼鏡を渡す。
「あの、ありがとうございます!リリアーナ殿下」
ペコリと頭を下げるデクランが可愛すぎて溢れる想いが抑えきれなくなる。
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