雨の庭

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雨の庭

沈黙の中を風が通り抜けていく あれはいつの記憶か あの日は晴れていた そして時間は残酷に続いた 今でも思い出す風景は いつも悲しさをまとっていた そこには誰もいないみたいで ただ庭の草木があった 今は雨が降っている ベランダの奥には 草が生えていて 風に揺れて、水滴に濡れていた 記憶の中で扉を叩く音がしている いつも側にいると思っていたのに どうやらそれは違ったみたいだった 雨が上がると、ベランダに出た 春の涼しい風が吹いている もう二度と会うことはないのだろう 部屋の中には虚しく時が過ぎた跡がある きっと他の人も こんな風に感じているのかもしれない アスファルトの道路を子供が駆けていく いつか思っていた未来はそこになかった それでも立ち上がろうと 部屋を出て、買い物に出かけた 外の植物の葉の上を かたつむりが移動している やけに穏やかに見える世界は きっといつまでもあるのかもしれない 僕はポケットに手を入れて 頭の中で音楽を繰り返した
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