1/1
前へ
/29ページ
次へ

暗い路地の裏にある一軒の店の中に入り 客の声の中に、いつかの風景を思い出す そこには扉があったから 僕はそこを開けた 平原が続いていた 結局、何もなかったらしい 見ている景色が夢の中のように 奇妙に曲がっていた ウイスキーを飲みながら 手帳を開く 文字が脳内に入ってくるのを 疲れた目で眺め続けている 何かが頭の中に引っかかっている その姿を見た時、 僕はまた扉の前にいた 暗い道が背後に続いている どうして、そこを眺めていたのか 今でもわからずに ただ続いている街の景色を思い出した 沈黙の静寂の後に、 そのドアノブをひねった やはり、平原が続いていた もう何度、繰り返したのだろう そこには人々がいた 彼らは、ただ僕のことをじっと見ていた 物音がしたので、気が付くと バーのテーブルで眠っていたらしい 僕は手帳を内ポケットに仕舞い 店を後にした 目には涙が滲んでいた もう何もなかった
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加