灯篭流し

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灯篭流し

川に流れていく火が ぼんやりと辺りを照らし 人々の顔が暗闇から浮き上がる 願いが漂って 無数の魂が消えていった 夏の夜の風が吹きわたり 思い出と共に全てが移り変わっていく ふいにあなたのことを思い出した 特に理由はないし 意味もないのかもしれない 川沿いを歩いていく どうして生まれてきたのだろうかと 考えても答えは出ない 家々の窓には明かりが灯っている 湿気と熱を纏った風が 体表を通り過ぎていく 結局、深夜になるまで 川を眺めていた 灯篭はもうなくなっている ただ淡い寂しさだけが いつまでもそこにあった 思いが宇宙に飛び立つ 悲しみを含んで あらゆるものが 時計の中を回っている いつか見た景色が 脳裏の扉を叩き続ける 僅かに香る草の匂いに導かれて 僕は先へと歩いていく 街灯が辺りを照らしている
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