記憶

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記憶

窓に映る水滴が流れていく いくつかの時間が過ぎていった 時計の針の音と雨音が木霊する 記憶の中を揺らめく風景が いつまでも響いていた 終わってみれば、誰だったのか 今では何もわからず アパートの部屋の中には何もなかったから 日が暮れるまで、外を見ていた 移り変わっていく空の色 懐かしく瞬いた閃光に紛れて もう一度歩き出すのは いつか出会った人だったのかもしれない 夜になって アパートの扉を開ける アスファルトは雨に濡れていたが 川は静かに流れていく 風が吹いていた それは体表を通過していった ピアノを弾いていたあの人は 今どこにいるのか 考えながら コンビニエンスストアに入って、 弁当と酒を買った 帰り道、街灯の下で 蝶が舞っている ダンスしているみたいに 朧気な記憶の中で 幻想と現実が奇妙に混ざっていて 誰も歩いていなかったから 白線の上を歩いていた 昔みたいに 数々の記憶が空に輝いている星のように続いている
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