夏祭り

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夏祭り

夏祭りの夜に境内にはぼんやりと提灯が灯る 階段を上って行く 石畳を踏む無数の音が響き渡る 高台のベンチに座る彼女に会う 他愛もない会話が続く いったい誰の火を見たのだろう 花火が次々と打ち上がる 彼女は微笑んでいた 時間は過ぎていく しばらくの間の沈黙の後に 火花が空を覆いつくす 彼女の後姿 消えていく人々 小さい頃の情景が脳裏に映る 歩き出した中で 雨が降っていた時のことを思う この町を離れてから もう何年も経ったけど こうして再び会うことになった あの夏、二人で歩いた 日光に照らされた影 嫌いだった自分が 通り過ぎて行く町の景色を 無意識に歩いていた 彼女が隣にいたのは 蜃気楼のように思えた 僕らはただ家に向かって 消えていく光の中を歩いた 花火が終わると じっと彼女は僕のことを見つめた 僕は微笑んでいた
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