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───今から千年前、全世界を脅かす絶対的脅威が存在していた。
世界の安定を名目にし、しかし実際は世界の崩壊を目論んでいた最悪の権化───その名は『終局』。
だが、その絶対的脅威は数人の英雄たちによって撃破され、世界の崩壊という未来は覆された。驚くべきはその英雄の内の一人が、未来からやって来た人間だとかで、真実を知る者はごく僅かである。
その者は望んだ。平穏な世界を。明るい未来を。
どんな風に変わっていても、自分の知らない世界になっていようと構わなかった。
………でも、こんな世界になっているとは夢にも思わなかった。
各地で争いが起き、築き上げられた秩序が乱され流れる血が絶えない目を背けたくなるほどに残酷な世界。
これが歴史を歪めた代償だと言うのならあまりにも報われない。夢にまで見た未来が自分の行いでこうなってしまったのかと考えると気が狂いそうになるだろう。
きっと彼は絶望のドン底に叩き落とされたことだろう。
彼は……未来を変えた英雄でもある張本人は小さく呻いた。
(───懐かしく感じるなぁこの牢屋……全然嬉しくないけど)
手足を鎖に繋がれ壁に張り付けにされた血みどろの黒髪の男───ユラシル・リーバックは口に溜まった血を吐き捨てながら目を前に向ける。
鉄格子の向こう側に座る二人の男女。鎧に身を包んだ銀髪の男とボディーラインの際立つ衣服とショートパンツを穿いた金髪の女は足を組み無言でユラシルを見据えていた。
銀髪の男、シービス・ハインバイス。
金髪の女、ミラ・ステイハイン。
二人はユラシルにとって歴史を変える前のこの時代で出会った親友たちだ。心から信じ合い、苦楽を共にしてきた親友たちはユラシルに冷徹な眼差しを向けてくる。
歴史が変わったせいで俺の知る二人じゃなくなっている。今のあの二人に無駄口を叩けば最悪殺されかねない。
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