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鈴木佐知は、息子の担当医と電話で話していた。
「それで、『ホームステイ』が始まってから今日でちょうど6年が立ちますが・・・・・・どうですか、ホームステイ先に、宏大くんは馴染めていましたか」
「ええ、それはもちろん」
受話器の向こうから聞こえる医師のくぐもった声に、佐知は心底嬉しそうに答えた。
「初日は、帰ってくるなりもう行かないと言って、部屋に閉じこもってしまったんですよ。でも、なんだかんだ言いつつそれからも行き続けてくれて。結局、無事に今日という日を迎えられました」
「それは大変良かった。ホームステイと伝えたことで、彼も少しは抵抗感が薄らいだのでしょう。単純でどうでもいいことのように思えますが、宏大くんのようになタイプにはなかなかよく効く療法なんです」
佐知と同じく、医師も喜びを声に滲ませながら言った。
「ええ。ホームステイと告げたのは、本当に素晴らしい効果をもたらしてくれました。宏大は生まれつき頭が良すぎたせいで、なかなか行くことを渋っていましたけども、無事に楽しんできてくれるようになりましたし」
医師の言葉に満足そうにうなずくと、佐知は言葉を続けた。
「先生が薬を処方してくれたり、特別な療法を行ってくれたおかげです。あの子も無事に、『卒業』できました」
────ここ数年間は、とてもいい笑顔でした。
明るい口調でそう話しながら、佐知はちらりと横目で隣を見た。
写真立てに入った家族写真が、いくつか置かれている棚の上。
そのすぐ近くには、『卒業証書 鈴木宏大 あなたは月ヶ岡小学校の課程を修了したことを証します』と書かれた白い厚紙が、飾られている。
(終)
叙述トリック練習のつもりだったのだが、思ったより単純になってしまった気がする・・・・・・大丈夫だろうか。皆様、ちゃんと騙されていただけましたか?
世の作家様方みんなすごすぎ
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