7時間のホームステイ

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 ずっしりと重い荷物を抱え、宏大はとぼとぼと道を歩いていた。  母はホームステイなどと(うた)っていたけれど、その(じつ)、それはただの通勤に近い。  駅まで歩き、路線や降車駅を確かめてから改札を通って、やってきた車両に乗り込んで隅の座席に腰掛けた。  数週間ぶりの外出だ。周囲には慌ただしく走り回る人の群れ、騒がしい声の波、規則的な電車の振動。  母は家にこもりがちな自分をよく外に連れ出そうとしていたが、玄関のドアの向こうにこんなにも騒々しい世界が待っていたのならば、それを断っておかなかったのは非常に残念なことである。  宏大は母に持たされた大きな荷物を抱え直した。  無職、無学歴、彼女なし、童貞、穀潰し。  こんな自分が、これから世の荒波に揉まれに外へ飛び出すというのは、どう考えても間違っているように思えてしまう。 「次は、月ヶ岡ー、月ヶ岡駅に到着です」  微かにくぐもった車掌の声が、宏大の降りる駅名を告げた。小さくため息をつきながら、宏大は立ち上がった。  自分の予想が正しければ、この数年間のホームステイは、最悪なものになるはずだ。  行き先だって、そこでやることだって、なんとなく予想がついているのだから。
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