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いつまで
夜中、以津真天は胸騒ぎで目を覚ました。真っ先によぎるのは、磔桜と少女。
磔桜へ向かおうと集落の上を飛んでいると、なにやら様子がおかしい。
何事かと、低く飛んでみることにした。
「あの娘が、化け物といるのを見たんだ!」
「昼間の気持ち悪い声も、あの娘のせいだ!」
彼らは興奮気味に叫んでいる。
(まさか――!)
急いで磔桜の元へ行くと、松明の明かりがいくつか見えた。そして松明に照らされているのは……。
「化け物に俺達を脅かさせやがって!」
「もうこれで悪さはできないだろ、疫病神」
口汚く罵る彼らの目線の先には、磔桜。磔桜には、少女が磔にされていた。
手のひらや腹、太ももなどに、杭が刺さっており、足元の花びらは赤く染まっている。
人間達はそそくさとその場から立ち去る。
「おい、娘!」
「来て、くれたの……。ねぇ、お願い……」
「喋るな!」
「そばに、いて……。いつまでも、いつま、でも……」
その言葉を最期に、少女は目を固く閉じた。
「あぁ、そばにいよう。いつまでも、いつまでも……」
以津真天の声は、泣き濡れていた。
数日、数ヶ月、数年と時は流れた。以津真天は、今もそこにいる。骨になった少女を抱えて。
「お前達は、いつまで娘を放置している? いつまで、愚かなことを続けるつもりだ……?」
どす黒い感情に覆われた以津真天は、集落へ向かった。
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