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 僕のじいちゃんは、いつも 「わしが死ぬときは、『ジェダイの騎士(きし)』のような最期を迎えたいのう」  と言っていた。今日も、そう言って縁側(えんがわ)で、桜の花がひらひらと落ちるのを見ている。 「じいちゃん、って何?」  僕は聞いた。何のことか、わからなかったんだもん。 「おお、アキ(ぼう)は小学3年生じゃから、『オビ=ワン』や『ヨーダ』のことは知らんじゃろうのう」 「誰さ? 外国の人? じいちゃんの友だちなの?」  違う。アメリカの映画に出てくる勇者の名前だった。『スターウォーズ』っていう映画だそうだ。そのアメリカ映画は、いいやつと悪いやつが、宇宙で戦いをする映画で、いいやつが『ジェダイの騎士』だとじいちゃんが言った。『オビ=ワン』や『ヨーダ』はその『ジェダイの騎士』なんだって。 「立派な『ジェダイの騎士』はなあ、死ぬときには体を残さず、消えるようにこの世からいなくなるのじゃ」 「え? 体が消えちゃうの? 死んだのに死体がないの?」  そんなの、おかしいよ。去年ばあちゃんが死んだときには、お(かん)に死んだばあちゃんがいたよ。死んだばあちゃんの体は、お棺ごと火葬場で燃やしたじゃんか。死んだばあちゃんの体が消える、なんてことはなかったよ。 「それはなあ、ばあちゃんは普通の人だからのう。当たり前じゃ」 「ばあちゃんが『ジェダイの騎士』だったら体が消えてなくなるの?」 「まあ、すべてのジェダイが、死んだときに消えるわけではないがのう。まあ、そこんところは、わしもようわからんが」 「何だよ、じいちゃんの言ってること、わけわかんないよ。でも、なんでじいちゃんが死ぬときのことなんて話すのさ。そんなこと言わないでよ。ずっと元気でいてよ」 「もちろん、ずっと元気でいるわい。でもわしも普通の人じゃからなあ。もし死んだら、葬式やら何やらして火葬して、お墓に骨を入れる。なんてことをしてもらうことになる。それを思うとなあ。消えるようにこの世からなくなるのが、さっぱりしてわしはええ」 「体がないと誰もじいちゃんが死んだのがわからないよ。それでもいいの?」 「そう、それこそわしが望む最期じゃ。誰にも知られずに消えていく。わしももうすぐ90歳じゃからなあ。そういうことを考えるのよ」 「もう、そんなこと言うのやめてよ。100歳越えても長生きしてよ。じいちゃん元気なんだから」 「もちろん長生きするぞ。世の中には、まだまだ面白いことがあるからのう。そうじゃ今度、久しぶりにヨットに乗ろう。さすがに体力的にも限界じゃからなあ、わしにとっては最後の航海かのう」  じいちゃんは、若いころからヨットに乗ってよく航海をしていた。そのヨットはクルーザーっていって、寝るところもついている7,8メートルぐらいの船なんだ。じいちゃんは、クルーザーに乗って1人で航海をするのが好きなんだ。 「じいちゃん、無理だけはしないでね」  僕は、そう言ったのに。
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