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①
僕のじいちゃんは、いつも
「わしが死ぬときは、『ジェダイの騎士』のような最期を迎えたいのう」
と言っていた。今日も、そう言って縁側で、桜の花がひらひらと落ちるのを見ている。
「じいちゃん、じぇだいのきしって何?」
僕は聞いた。何のことか、わからなかったんだもん。
「おお、アキ坊は小学3年生じゃから、『オビ=ワン』や『ヨーダ』のことは知らんじゃろうのう」
「誰さ? 外国の人? じいちゃんの友だちなの?」
違う。アメリカの映画に出てくる勇者の名前だった。『スターウォーズ』っていう映画だそうだ。そのアメリカ映画は、いいやつと悪いやつが、宇宙で戦いをする映画で、いいやつが『ジェダイの騎士』だとじいちゃんが言った。『オビ=ワン』や『ヨーダ』はその『ジェダイの騎士』なんだって。
「立派な『ジェダイの騎士』はなあ、死ぬときには体を残さず、消えるようにこの世からいなくなるのじゃ」
「え? 体が消えちゃうの? 死んだのに死体がないの?」
そんなの、おかしいよ。去年ばあちゃんが死んだときには、お棺に死んだばあちゃんがいたよ。死んだばあちゃんの体は、お棺ごと火葬場で燃やしたじゃんか。死んだばあちゃんの体が消える、なんてことはなかったよ。
「それはなあ、ばあちゃんは普通の人だからのう。当たり前じゃ」
「ばあちゃんが『ジェダイの騎士』だったら体が消えてなくなるの?」
「まあ、すべてのジェダイが、死んだときに消えるわけではないがのう。まあ、そこんところは、わしもようわからんが」
「何だよ、じいちゃんの言ってること、わけわかんないよ。でも、なんでじいちゃんが死ぬときのことなんて話すのさ。そんなこと言わないでよ。ずっと元気でいてよ」
「もちろん、ずっと元気でいるわい。でもわしも普通の人じゃからなあ。もし死んだら、葬式やら何やらして火葬して、お墓に骨を入れる。なんてことをしてもらうことになる。それを思うとなあ。消えるようにこの世からなくなるのが、さっぱりしてわしはええ」
「体がないと誰もじいちゃんが死んだのがわからないよ。それでもいいの?」
「そう、それこそわしが望む最期じゃ。誰にも知られずに消えていく。わしももうすぐ90歳じゃからなあ。そういうことを考えるのよ」
「もう、そんなこと言うのやめてよ。100歳越えても長生きしてよ。じいちゃん元気なんだから」
「もちろん長生きするぞ。世の中には、まだまだ面白いことがあるからのう。そうじゃ今度、久しぶりにヨットに乗ろう。さすがに体力的にも限界じゃからなあ、わしにとっては最後の航海かのう」
じいちゃんは、若いころからヨットに乗ってよく航海をしていた。そのヨットはクルーザーっていって、寝るところもついている7,8メートルぐらいの船なんだ。じいちゃんは、クルーザーに乗って1人で航海をするのが好きなんだ。
「じいちゃん、無理だけはしないでね」
僕は、そう言ったのに。
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