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②
じいちゃんのヨットは、朝出航して夕方には帰ってくるはずだった。
でもその日の夜になってもヨットは帰らなかった。
次の日も帰らない。
じいちゃんのヨットが見つかったのは、港を出てから3日目だった。
じいちゃんをよく知っている漁師のおじさんが沖で帆もあげずただ揺れているじいちゃんのヨットを見つけてくれた。連絡をうけた海上保安庁の船がすぐにヨットに向かったんだ。
じいちゃんは、乗っていなかった。
誰も乗っていないヨットが、沖で浮いていただけなんだ。
デッキにじいちゃんの服が落ちていたそうだ。周りの大人は、じいちゃんが『海に落ちた』だの、『飛び込んで死んだ』などと騒ぎ立てたんだけど。僕にはわかっていた。
じいちゃんは、『ジェダイの騎士』だったんだ。
静かに体が消えて、最期を迎えたんだ。
じいちゃんは泳げないから、自分から海に入ることはないと思う。穏やかな海で、ヨットから落ちることなんてことはないし。飛び込み自殺なんて海へのぼうとくだと、じいちゃんはいつも怒っていた。ぼうとくって意味はわからないけど、してはいけないことらしい。
この3日間海は穏やかだった。ヨットに壊れたところもない。じいちゃんのヨット仲間も漁師のおじさんも不思議がった。
やっぱり、じいちゃんは消えるようにこの世を去ったんだ。
優しかったじいちゃん。海のことを、たくさん教えてくれたじいちゃん。もっともっと、いろんなことを教えてもらいたかったのに。
立派な『ジェダイの騎士』だったんだね。
きっと海を見ながら、ふわっと消えちゃったんだ。
おじいちゃんが言ってた最後の航海だったんだね。
僕は、おじいちゃんが、その辺に立っているような気がしてならなかった。しかし、父さんや母さん、漁協の人やヨット仲間のおじさんたちは、じいちゃんをさがそうとバタバタしていた。日曜日、じいちゃんのヨットは、漁船に引っ張られて港に戻ってきた。もちろんじいちゃんは乗っていない。警察みたいな人が何人かヨットに乗り込んで、写真を撮ったり落ちていた服をビニール袋に入れたりしてる。あれで何かがわかるのかなあ。僕はその様子を、港でずっと見ていた。
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