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 じいちゃんのヨットは、朝出航して夕方には帰ってくるはずだった。  でもその日の夜になってもヨットは帰らなかった。  次の日も帰らない。  じいちゃんのヨットが見つかったのは、港を出てから3日目だった。  じいちゃんをよく知っている漁師のおじさんが沖で()もあげずただ揺れているじいちゃんのヨットを見つけてくれた。連絡をうけた海上保安庁(かいじょうほあんちょう)の船がすぐにヨットに向かったんだ。  じいちゃんは、乗っていなかった。  誰も乗っていないヨットが、沖で浮いていただけなんだ。  デッキにじいちゃんの服が落ちていたそうだ。周りの大人は、じいちゃんが『海に落ちた』だの、『飛び込んで死んだ』などと騒ぎ立てたんだけど。僕にはわかっていた。  じいちゃんは、『ジェダイの騎士』だったんだ。  静かに体が消えて、最期を迎えたんだ。  じいちゃんは泳げないから、自分から海に入ることはないと思う。(おだ)やかな海で、ヨットから落ちることなんてことはないし。飛び込み自殺なんて海へのだと、じいちゃんはいつも怒っていた。ぼうとくって意味はわからないけど、してはいけないことらしい。  この3日間海は穏やかだった。ヨットに壊れたところもない。じいちゃんのヨット仲間も漁師のおじさんも不思議がった。  やっぱり、じいちゃんは消えるようにこの世を去ったんだ。  優しかったじいちゃん。海のことを、たくさん教えてくれたじいちゃん。もっともっと、いろんなことを教えてもらいたかったのに。  立派な『ジェダイの騎士』だったんだね。  きっと海を見ながら、ふわっと消えちゃったんだ。  おじいちゃんが言ってた最後の航海だったんだね。  僕は、おじいちゃんが、その辺に立っているような気がしてならなかった。しかし、父さんや母さん、漁協の人やヨット仲間のおじさんたちは、じいちゃんをさがそうとバタバタしていた。日曜日、じいちゃんのヨットは、漁船に引っ張られて港に戻ってきた。もちろんじいちゃんは乗っていない。警察みたいな人が何人かヨットに乗り込んで、写真を撮ったり落ちていた服をビニール袋に入れたりしてる。あれで何かがわかるのかなあ。僕はその様子を、港でずっと見ていた。
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