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④
じいちゃんは、出航した日の夕方、港に帰ろうとしたら急に胸が痛くなったそうだ。
動くのもつらくてデッキに座りこんでいたときに、隣町の漁船が通りかかった。じいちゃんは、胸が痛いのを我慢して、服を脱いで漁船に向かって振って合図をしたんだ。漁船のおじさんは、それを見て何かが起こったと思って、じいちゃんのヨットまできてくれた。じいちゃんが、胸の痛みのことを言って助けを求めたら、びっくりした漁船のおじさんは、すぐさまじいちゃんを自分の船に乗せて、隣町の漁港に最速で引き返した。
じいちゃんのヨットは、引っ張っていくと抵抗になって速度が遅くなるので、その場に置いていったそうだ。
だから、誰も乗っていないヨットが取り残されてプカプカと浮いてたんだ。
じいちゃんは、隣町の漁港から救急車で、この病院に運ばれ胸を見てもらった。お医者さんが言うには、心臓発作だったらしいけど、すぐ死んでしまうほどのことは、なかったって。でも、無理はできないからしばらく入院するように言われたんだ。
「親父! なんですぐ連絡してくれなかったんだよ。保安庁まで来てえらい騒ぎだったんだぜ」
父さんが、半分泣きそうになって、じいちゃんに言った。
「すまん。痛みもとれて意識もあったが、なんか放心状態でな。アキ坊には、消えるように死にたいなどと、かっこうをつけて言ってしもうたし。なんか、はずかしゅうてな。もたもたしとったら、知らせるのが遅うなってしもうた」
「お義父さん! もうバカげたことは言わないでください! なにが消えるようにですか! ホントにホントに心配したんだから……」
母さんは、手で顔を隠してわんわん泣いた。母さんがこんなに怒って、泣いたところを初めて見たよ。母さんもじいちゃんが大好きなんだ。
「すんません」
じいちゃんは、頭をかいている。
ふと僕とじいちゃんは目が合った。
「アキ坊よ、正直言うとな、ヨットの上で1人で苦しくなったときは本当に怖かったわい。今回は、助かったからよかったが……。『ジェダイの騎士』は本当につよいんじゃなあ。わしは、まだまだ修行が足りん」
「なに言ってんだよ。じいちゃんは、いつものじいちゃんで元気でいてくれれば、それだけでうれしいんだよ。もう、消えるように死にたいなんて言わないでよ。大好きなじいちゃんがいなくなったら、僕、僕……」
涙がぼろぼろ出てきた。
「アキ坊、わしもお前が大好きじゃ。悲しませてすまんかったのう。もうあんなことは言わんよ。それから、今回がじいちゃんの最後の航海じゃ」
「そうだよ親父。ヨットはもう卒業してくれよな」
父さんが、ピシッと言った。母さんもうなずいている。
だけど……。
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