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 じいちゃんは、出航した日の夕方、港に帰ろうとしたら急に胸が痛くなったそうだ。  動くのもつらくてデッキに座りこんでいたときに、隣町の漁船が通りかかった。じいちゃんは、胸が痛いのを我慢して、服を脱いで漁船に向かって振って合図をしたんだ。漁船のおじさんは、それを見て何かが起こったと思って、じいちゃんのヨットまできてくれた。じいちゃんが、胸の痛みのことを言って助けを求めたら、びっくりした漁船のおじさんは、すぐさまじいちゃんを自分の船に乗せて、隣町の漁港に最速で引き返した。  じいちゃんのヨットは、引っ張っていくと抵抗になって速度が遅くなるので、その場に置いていったそうだ。  だから、誰も乗っていないヨットが取り残されてプカプカと浮いてたんだ。  じいちゃんは、隣町の漁港から救急車で、この病院に運ばれ胸を見てもらった。お医者さんが言うには、心臓発作だったらしいけど、すぐ死んでしまうほどのことは、なかったって。でも、無理はできないからしばらく入院するように言われたんだ。 「親父(おやじ)! なんですぐ連絡してくれなかったんだよ。保安庁(ほあんちょう)まで来てえらい騒ぎだったんだぜ」  父さんが、半分泣きそうになって、じいちゃんに言った。 「すまん。痛みもとれて意識もあったが、なんか放心状態でな。アキ坊には、消えるように死にたいなどと、かっこうをつけて言ってしもうたし。なんか、はずかしゅうてな。もたもたしとったら、知らせるのが遅うなってしもうた」 「お義父(とう)さん! もうバカげたことは言わないでください! なにが消えるようにですか! ホントにホントに心配したんだから……」  母さんは、手で顔を隠してわんわん泣いた。母さんがこんなに怒って、泣いたところを初めて見たよ。母さんもじいちゃんが大好きなんだ。 「すんません」   じいちゃんは、頭をかいている。  ふと僕とじいちゃんは目が合った。 「アキ坊よ、正直(しょうじき)言うとな、ヨットの上で1人で苦しくなったときは本当に怖かったわい。今回は、助かったからよかったが……。『ジェダイの騎士』は本当につよいんじゃなあ。わしは、まだまだ修行が足りん」 「なに言ってんだよ。じいちゃんは、いつものじいちゃんで元気でいてくれれば、それだけでうれしいんだよ。もう、消えるように死にたいなんて言わないでよ。大好きなじいちゃんがいなくなったら、僕、僕……」  涙がぼろぼろ出てきた。 「アキ坊、わしもお前が大好きじゃ。悲しませてすまんかったのう。もうあんなことは言わんよ。それから、今回がじいちゃんの最後の航海じゃ」 「そうだよ親父。ヨットはもう卒業してくれよな」  父さんが、ピシッと言った。母さんもうなずいている。  だけど……。
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