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二人で小さく笑っていると、もう一人、男が駆け込んできた。
「タケルッ!!」
「ワタル……」
知らない男だ。
「お前、こんなところで何してんだよッ!」
「俺、東京でミュージシャンやるんだよ」
「東京って……お前、ユミちゃん、このこと知ってんのかよ?!」
……え?
「あいつとは……なんでもねぇよ……」
「なんでもねぇって、お前──」
ちょちょちょちょちょ。ちょっと。
目の前で繰り広げられるドラマのワンシーンに、思わず声が出た。二人が不思議そうにこちらを見ている。
「えぇっと、ワタルさん?」
「あ、はい」
「そのー、ユミさん、ってのは?」
「コイツの彼女っすよ」
知らない女である。彼女であるか否かどころか、名前すら聞いたことのない女である。
「え、お前、彼女いたの?」
タケルにそう尋ねるも、タケルはバツの悪そうに無言を貫くだけだった。その様子に腹を立てたのか、ワタルが詰め寄った。
「お前ッあの日俺と約束したよな?! あの日、河川敷で殴り合ったとき、『絶対に幸せにする』って言ったよな?! あの言葉は嘘だったのかよ!!」
初耳だ。
「え、タケル。お前そんなことしてたの?」
「……まぁ」
「いや、わかんないよ? わかんないけど、そういうのって【親友】とやるもんじゃない?」
二人とも「何言ってんだコイツ」といった顔をしている。
「俺達、親友だよな?」
「親友だな」
「ドラマとか映画であるじゃん、こういうの。大体、親友と主人公の組み合わせでやるじゃん」
「????」
「いや、なんでピンときてねぇんだよ…… だとしても、どうして俺に言わなかったんだよ」
「ちょっと、恥ずかしくて……」
「どんな理由だよ。なんならちょっとショックだよ」
「それはゴメン」
タケルが軽く頭を下げた。会話が一段落着いたところを見計らって、ワタル発のドラマシーンが再開された。
「で、お前どうすんだよ。ユミちゃん、独りにさせるのかよ?!」
「俺、ビッグになってよ、またこの街に帰って来っからよ」
そこは俺と同じゴールなのか。
「だから、ユミにはそれまで、少しだけ、待っていてほしい」
それはユミさんに直接言うべきでは?
「……あんまり時間かけてっと、俺がとっちまうからな」
あぁ、納得したんだ。それでいいのか。
二人は腕をぶつけあい、男の友情の元に誓いをたてたようだ。蚊帳の外の身としては、いささか不服ではある。
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