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「──先輩ッ!」
またひとり駆け込んできた。少し小柄な、ユニフォーム姿の男の子だ。
「コバ……どうして」
「大木先輩から聞きました。どうして突然行っちゃうんですか?! まだ教えてほしいことが沢山あるのにッ!!」
「……俺に教えられることなんざ、もうなにも無ぇよ」
「何言ってるんですか! 全国に連れてってくれたそのバッティングとか、まだ山程あるじゃないですかッ!」
いやいやいやいや、バッティング? 全国??
「あのぉ、おたくは……?」
「あっ、野球部一年の小林です!」
無垢な目が眩しく輝いている。
「先輩のご友人の方ですか?」
「一応、そのつもりなんですけど…… え、全国??」
「はい! 練習試合すら一度も勝てたことのない弱小だったんですけれど、先輩が野球をもう一度始めてくれたおかげで、去年の夏は全国試合にまで進めたんです! ……まぁ、一回戦敗退でしたけど」
照れくさそうに笑っているが、誇らしげなのはひしひしと伝わる。が、やはり初耳である。
「え、タケルお前、野球してたの?」
「昔、ちょっと……な」
「いや知らない。そんな意味深に言われても知らない」
すると、少年と同じユニフォームを着た大柄な男が歩いてきた。
「コバ、やっぱりここに来てたか」
「大木先輩?!」
「どうせお前のことだから、無理に引き留めようとでもしたんだろ」
「でも──」
「お前も、他の皆もいるじゃねぇか。何も不安がることなんて無いさ。それに、夢に向かって行かせてやるのも、【ダチ】ってもんだろ?」
「先輩……」
すると、大柄の男はタケルに近づき、「行って来い。始球式は投げに来いよ」
と肩を強く掴んだ。タケルも「おう」と力強く答えた。
多分、そこも俺のトコだと思うんだけどなぁ。
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