子犬

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 「痛いか。そうだよな、痛いよな」  子犬が蹴られて甲高く鳴いた。子犬を取り囲むのは三人の男子中学生だった。 「可哀想に、お前が弱いからいけないんだぞ」  子犬の脇腹につま先がめり込んだ。離れて見ている僕にも骨の砕ける音が届いた。 「おい、こいつ急に大人しくなりやがった」  三人が野卑に笑う。もうそのくらいにして居なくなれ。僕は両の拳を震わせながら念じた。  僕は卑怯者だから、助けてやることが出来なかった。いじめられている子犬に自分の姿が重なって、怖くて木陰で見ていた。  その子犬は公園にふらりとやって来た。飼い犬が逃げ出したのか、赤い首輪をしていた。人懐っこい子で、ベンチに座る三人を見るや尻尾を振りながら近付いていった。遊んでもらおうと思ったんだ。しかし、相手が悪かった。あいつらはここらで最も質の悪い三人なんだ。 「おい、生きてるかー」  一人が子犬の首輪に指を引っ掛けて持ち上げた。力無く項垂れた体を左右に揺する。反応が無い。僕は悔しくて唇を噛んだ。  突如、子犬が悲痛な悲鳴を上げた。奴らの一人が、子犬の垂れ耳を持ち上げ、火のついた煙草を捩じ込んだのだ。 「なんだ、生きてんじゃん。死んだフリなんざしやがって」  子犬の小さな体が地面に叩きつけられた。衝撃で前足がおかしな方向へ折れ曲がった。
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