子犬

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 見てられなかった。堪らず僕は木陰から飛び出した。臆病者の僕が、短い一生で初めて発揮した勇気だった。  唸りを上げて走り来る僕を見て、三人は若干たじろいだ様に見えた。が、それも一瞬で、奴らの口角が吊り上がった。次の獲物を見つけた。奴らの醜悪な笑みがそう言っていた。  強烈な衝撃が僕の全身を襲った。体がふわりと宙に浮き、視界が二転三転する。気付いた時には地面に這いつくばっていた。電気の様な激痛が走り、動けない。呼吸もままならない。霞む視界の端であの子犬と目が合った。  子犬は片目が潰れていた。血なのか泥なのか、ドス黒い何かで全身が汚れている。こちらを見つめる目に、どうしてもっと早く助けてくれなかったの?と、怨めしむ色が見てとれた。  ごめんよ。そんな目で見ないでくれ。僕はただ、怖かったんだ。 「コラァッ」  突然、怒号が聞こえた。見れば、杖を突いたお爺さんが僕らの方へヨタヨタと駆け寄って来る。 「何をしとるかっ、クソガキ共が!」 「ヤベッ」  奴らの一人が焦りの声を上げた。僕の頭の真上で上げた足をさっと引っ込めた。止めてくれなかったら、今頃、僕の頭は潰れていた。 「あの爺、うるせぇからな」 「おい、行こうぜ。学校にチクられても面倒だ」  奴らは近くに停めてあった自転車に飛び乗り、あっという間に逃げていった。  お爺さんは逃げる三人になど目もくれず、一直線に僕の元へ。膝を着いて僕を優しく抱き抱えた。老体に鞭打って急いだものだから、息が荒い。今にも泣き出しそうな弱々しい顔をしていた。
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