プロローグ

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プロローグ

──さよなら。 誰かが私にそう言った。優しくて悲しいような声で。しかしそれが誰なのかは分からない。ただ、別れというのはきっと辛いものなんだと思っていた。 私が物心ついた時、私は祖母の家にいた。祖母の家は自然豊かなところで、都会と呼ばれる場所とは似つかないほどだった。こんな辺鄙な場所には人はあまりこない。だから私はよく一人で遊んでいた。 祖父母は私に優しくしてくれて、おままごとに付き合ってくれたりもした。 月に一度、私は祖父の運転で都会へ向かう。 そこは緑が少なく、機械にあふれ、空が小さく見える場所だった。当初、私は都会に圧迫感を感じ、終始おっかなびっくりな状態で過ごしていたらしい。 私が都会に行く理由は父親に会うためだった。 父は私を一人で育てようと努力したが、仕事との両立は困難で、仕方なく祖父母に私を預けたのだった。 しかし、父も私には会いたいようで、父の仕事が休みの時は、時々こうして会いに行き、一日を共に過ごしていた。 父と会う時はいつも楽しかったので私は一週間前になると浮かれていた。 しかし、私は祖父母と過ごしたので、父を『親』とは視認できず、『遊び相手』程度に思っていた。 祖父母は孫の私をこれ以上ないほどに優しくしてくれたのも理由の一つだろう。 そうして自然に囲まれてすくすくと育っていく私とは反対に祖父は衰えていき、ついにあの世へ旅立ってしまった。 私は一日中泣き止むことができなかった。 祖父との思い出を思い出しては泣き、祖母に祖父と同じようにならないで、と泣きすがった。 しかし、そんな思いも届かず、祖母も後を追うようにして一年後に旅立った。
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