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それから私は父の元で暮らすことになった。 その頃から私は小学校に通うようになっていた。 祖父母は私を保育園や幼稚園には入れてくれなかったが、その分多くを遊びに費やした。 祖父母は一秒でも長く私と一緒にいたかったのだろう。そう思うとまた泣けてきた。 小学校に入ると学童に私は預けられた。父の仕事が終わるまでは学校の先生や友達と遊んで来るのを待っていた。 そんな生活も終わり、私は中学に入学。中高一貫校だったのでそのまま、高校生になった。 学校生活で私は一つだけ気がかりなことがあった。 授業参観である。父は毎回見にきてはくれず、クラスメイトによく親のことをからかわれたりもした。だが私は全て無視してその場を切り抜けてきた。 高校生になってからも父は見にきてはくれなかった。思春期真っ只中の私にとっては父親と疎遠になることは至って普通であり、容易いことであった。 しかし、父は休みの日は必ずといって良いほど私と時間を潰してくれた。もっとも、休みの日はブラック企業に勤めてるのか、と思うほど少なかったが。 今まで育てられなかった分、祖父母が真心込めて育ててくれた私を壊さぬよう、優しくしてくれた。親として時には叱ってくれた。私にはそんな『親』がいてくれるだけで誇りに思っていた。 しかしそんな日々も長くは続かなかった。 ある日、学校から帰ろうとすると大雨が降っていた。傘を持ってきていなかったのでダメ元で父に連絡をした。 するとすぐに既読がつき、すぐ向かう、とのことだった。父は仕事を早く切り上げてきたのだろうか。 しかしいくら待っても父は来ず、見かねた先生が予備の傘を貸してくれた。 私はお礼を言って、家まで小走りで帰った。 帰り道には水たまりがたくさんできており足元を見ながら避けて進まなければならなかった。 そうやって足元を見て小走りで家に向かっていると視界に水色の傘が入った。 ──私の傘だ。 視線を少し前に動かしてみるとそこには父の姿があった。その周りは赤の絵の具を垂らしたみたいに血が流れていた。 私はその時、何もかもなくなった世界に取り残された。 「め……ぐみ──」 その父の最後の声を聞いた直後、私は気を失った。──メグミって? そうして私は親をまた失ってしまった。 父が握っていた毛髪から他殺と警察は言っていたが犯人はまだ捕まっていないという。 私はどうすることもできず、また泣いた。 しかし正義感の強い父の、泣いてばかりじゃ良いことは訪れない、という言葉に励まされ私は前を向くことができた。
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