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お母さんの説教が終わってもなお舌がヒリヒリと火傷したように感じた私は、甘さと冷たさで中和できないものか、とコンビニまでアイスを買いに行くことにした。
すると、後ろからリナが何事もなかったかのように「わたしもー」と着いてきて、妹として当然の権利かのようにお菓子を買った。支払いは私持ち。なんて身勝手な妹だろう。甘やかして買ってしまう私も私だが。
「お姉ちゃんはわかり易すぎるんだよ」
帰り道。意気揚々とコンビニのレジ袋を振りながら歩くリナが話しかけてきた。夜風に吹かれて、ようやく私の汗は止まりつつある。
「うるさい」
まだあまり怒りの治まっていない私は突き放すように言うが、リナは特に気にしていない様子。
「もう、あんなことしないでよ」
「あんなことって?」
何を指摘されているのか分からないのか、リナは小首を傾げた。まさか、余罪が多すぎてどれか一つに絞れないの?
「変なことしてお菓子を買わせたりするの。何回も買ってたらお金なくなっちゃうよ」
「バレてたんだ」
とリナは罪悪感の欠片もなく、可愛らしく舌をペロッと見せた。まさか、バレてないと思ってたのか。
ここまで奔放な子だったとは、これは何を言っても無駄。更生の余地なし。むしろ、自衛手段を考えないと。と私はすべてを諦めそうになる。
そんな姉の気も知らず、リナは家に帰るまで待ちきれないのか、レジ袋の中を嬉しそうに覗いている。
あれだけ痛い目を見ておいてどうかと思うが、私は楽しそうにする妹を可愛らしく思ってしまう。そりゃあ、調子にも乗るわけだ。
私は、仕方ないか、と一つ息を吐いた。
「ところでさ」
何気なく私は口を開く。
「そんなにお菓子ばっかり食べてたら、太るよ」
今更、懲らしめようだとか傷つけようなんて気持ちのない、正真正銘の軽口だった。それなのに、リナはピタリと立ち止まり、雷に打たれたかのように動かなくなってしまった。
「太るの?」
衝撃の事実に目を見開き、唇をわなわなと震わせながらリナは尋ねる。
「そりゃあ、食べ過ぎたら」
何を今更、と私は素直に答えると、リナは鬼気迫る表情で詰め寄ってきた。まるで私が悪いことをしたみたい。
「こんなに美味しいのに?」
「美味しいからっていうか、甘いからだよ」
「こんなに幸せなのに?」
食べたら幸せになるってことだろうか?
「幸せ太りって言葉はあるけど、幸せ痩せって言葉はないからね」
リナはまじまじと私の胴体を見つめ、腹部あたりを指先で突くと、
「……ほんとだ」
と驚愕の表情で私を見上げた。
待て。どこで確認した?
「ごめんね。お姉ちゃんっ。もうイタズラしない」
勢いよく頭を下げて謝罪され、私は呆気にとられてしまう。これまで見たことのないくらい深いお辞儀。
まさか、こんな簡単な一言で反省させられるなんて。作戦なんて考えて痛い目を見た私が馬鹿馬鹿しくなってしまう。
それにしても、妹も小学生ながらに乙女だったらしい。
微笑ましくて、私はくすりと笑った。
「お菓子も我慢するっ。お姉ちゃんも食べちゃだめだからねっ」
堂々と宣言するリナ。どうして私まで? と疑問は浮かんだが、折角やる気になったリナに水を差すのもどうか、と黙っておくことにした。
ふと、さっきのリナの確認が気になり自分でも腹部のあたりを触ってみた。前より柔らかくなってるような……。まだ、大丈夫、だよね?
「ほら、お姉ちゃんっ。走って帰るよっ。少しでも痩せるのっ」
まあ、妹に付き合ってあげるのも悪くないか。
「はいはい」
いつまでやる気が続くだろうか、と苦笑しながら私も走り出した。
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