最後のひとつはわたしのっ!

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「あーっ、それ、わたしが食べようと残してたのにぃっ」  家中に甲高い妹――リナの叫びが響き渡る。耳の中がきぃぃんと痛みを感じながらも、私は既に口の中に放り込まれていたシュークリームを咀嚼する。 「どうして食べちゃうのっ? お姉ちゃん。信じらんないよっ」  頭を振りながら訴えるリナ。わたしはゴクリとシュークリームを飲み込んでから反論しようと口を開いた。 「でも……」 「でもじゃないよっ」  しかし、リナにまくし立てられ、反論は封じられてしまう。わたしは口をぽかんと開けたまま固まる。 「妹が後で楽しみに食べようとしてたお菓子を食べちゃうお姉ちゃんがどこにいるのっ。ほんとに信じらんないっ。子供じゃないんだよっ?」  私まだ十六歳だから大人じゃないんだけど、と口から出そうになったが、余計に面倒なことになりそうなので口を閉じた。 「でも……」 「まだ言い訳するのっ?」  冷蔵庫に入っていたシュークリームは昨日お父さんが買ってきた物で、厳密に誰の物って決めてなかったし、名前なんかも書いてなかったよね? という反論はまたしても封じられてしまった。 「そういうところ、大人としてどうかと思うよっ」  いい加減しつこいので少しムカついたが、リナは八歳下。私は高校生でリナは小学生。もし喧嘩しようものならお母さんに、お姉ちゃんなんだからちょっとは我慢しなさい、と私だけが叱られるに決まってる。理不尽さを感じながら、私は耐える。  それにしても……。プンプンと怒るリナの顔を見下ろす。我が妹はこれ程お菓子に執着する子だったろうか? それとも、たまたま機嫌が悪いだけ?  私は一つため息を吐いた。どちらにしろ、面倒。 「あのさ……」 「何っ?」  噛みつかんばかりの勢いで、リナはこちらを睨む。 「ごめん。私が悪かった。またシュークリーム買ってくるから、それで許してくれる?」  申し訳無さそうな雰囲気を醸しつつ、私は顔の前で手を合わせる。  すると、妹はそれまで怒っていたのが嘘だったかのように笑顔になった。少しばかり瞳がキラキラと輝いても見える。が、すぐにまたぶっきらぼうな顔になる。笑顔が隠しきれていないが。 「ま、まあ、今回はそれで許してあげなくもないよ。あ、二つね」 「ありがと」  どうして私が礼を言わなきゃいけないんだろう。それに、何故か二つに増えてる。疑問は浮かんだが、やっぱり口には出さない。  気が変わらない内に、と私はコンビニに行くために玄関へと向かう。  そこでふと、思い至った。  もしかして、これが狙いだった? 一つのシュークリームを二つに増やすための策略。  ……まさかね。  流石に思い過ごしだろう、と考えを振り払うように私は頭を振った。
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