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しかし、その予想は的中してしまう。
ある日、また私が冷蔵庫に残されていた最後のお菓子――今回はフィナンシェ――を口に入れた瞬間「あーっ、お姉ちゃんがわたしの残してたお菓子食べたぁっ」とどこからともなく叫びながら現れ、お菓子を二つ買うことになった。また次の時も同じく。たまたま最後に残っていたお菓子を私が食べると、妹に責められてお菓子を二つ買って献上することになる。
四度目は流石におかしいと私も気が付き、お菓子に手を伸ばす直前に辺りを確認した。すると、キッチンの入り口の陰に身を隠しながら、リナがじっとこちらを見張っていた。まるで獲物が罠に掛かるのを待つ狩人の目で。
気が付かないふりをしながら様子を窺っていると、徐々にリナは落ち着かなくなり、私がお菓子を口にするのを今か今かと待ちわびるように壁の陰から出たり入ったりしだした。
一応、確認のためにとお菓子を食べてみると、案の定リナはしてやったりと壁から飛び出し「あーあっ、またお姉ちゃんはっ」と怒って私を責める。しかし、事情を知った私にはその表情は怒りよりもしたり顔に見えた。
「あのね、全部見てたよ」
当然、私は反撃に出る。これまで可愛らしい顔に騙されてきたから苛立ってはいたが、ここで怒っては大人げないのでなるたけ冷静に諭すように。
しかし、リナは反省の色すら見せず、
「何、言ってるのっ。そういうの、盗人猛々しいって国語の授業で習ったよっ。大人なのに見苦しい」
と開き直ってしらばっくれてきた。少しも怯まずに反撃出来るあたりが、小学生ながらに恐ろしい。
それどころか、図星を突かれて感情が昂ぶったのか、それとも演技の才能でもあるのか、リナは両手で目をこすりこすり泣き出してしまった。
まさかの行動にどうしたものかとオロオロする私。大泣きするリナ。騒ぎを聞きつけたお母さんが来てリナに事情を聞く。
するとリナは泣きじゃくりながらも、自分のしようとしていたことを全て隠し、それどころか、私がリナの食べようとしていたお菓子を取り上げたかのようにでっち上げた。
唖然としながらも私はリナの嘘を指摘しつつ、自身の身の潔白を証明しようとした。しかし、私は姉で、リナは妹。しかも泣いている。その上、私がお菓子を食べたのは事実。
こうなると年上の私に勝ち目などなく、これといった状況確認も捜査もされないまま、一方的な加害者にされて叱られた。理不尽。
納得できないながらも形だけ謝り、またお菓子を買うためにコンビニまでトボトボと歩く。この世界に味方はいない。私は独りぼっち、傷心しながら見上げた夜空に浮かぶ月は、これまでで一番綺麗で大きかった。
家に帰ってお菓子を献上すると、リナは何事もなかったようにケロッとした顔で、嬉しそうにニコニコとカヌレを二つ頬張った。天性の悪女か。
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