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「急に気が変わったの」
私はそう言って裕也と共に花見に出掛けた。
「なんだ、ここは加奈の育った街だったのか。知らなかったよ。この前教えてくれたらよかったのに」
そう言って頬を膨らませる裕也。ごめんごめんと謝って私たちは桜並木の道を歩く。
「それにしても綺麗な桜だなぁ」
「そうね。あ、ちょっと寄り道していい?」
私はそう言って人気のない道を行く。ひょっとしてもうなくなってしまっているかと危惧したが幸いあの貧相な桜の木は変わらず花を咲かせていた。
「お、何ここ、地元民だけが知ってる秘密のスポット?」
私は笑って首を横に振る。
「そんなんじゃないよ。ただ昔ね、ここに宝物を埋めたの」
宝物と聞いた途端、裕也が顔を輝かせた。
「おぉ、タイムカプセルみたいなもん? そういうのワクワクするな。掘り返してみないか?」
私が「いいよ」と頷くと彼は近くに落ちていた石を手に取った。
「確かその辺りかな」
指輪を埋めたのとは反対側を指差すと彼は嬉しそうに土を掘り始める。
「私はこっち見てみるね」
そう言って指輪を埋めたはずの場所を掘っていると何かが指に絡みついた。栗色の細い糸のようなもの。私は微笑んで振り払う。
(もう少し根元に近いとこだっけ)
場所を変えて掘ってみると何か硬いものが触れた。指輪だ。私は土で汚れた指輪をしばらく眺めた後、再びぎゅっと土の中に押し込んだ。指輪を取り出すのが目的だったわけじゃない。ちゃんと埋まっているかどうか確かめたかっただけだ。
「やっぱり見つからないね。桜見て帰ろっか」
私は掘り返した辺りをしっかりと踏み固めながら言う。彼は残念そうにしていたが諦めて立ち上がった。
「そうだな。あーあ、手が泥だらけだ。車にウェットティッシュあったかなぁ」
そう言って歩き出す彼の後ろ姿を見ていた私はふと自分の手元に視線を移す。そこにはまだ栗色の細いものが絡みついてた。しつこいな、と思いつつ振り払う。やっぱり桜は好きになれそうにない。桜の下には大きな大きな秘密が埋まっているから。
――あんたの言う通りだったね。桜の下に埋めたものは……見つからない。
了
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