1.恋人との会話

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「あーあ、嫌なもの見ちゃった」  ひとり暮らしの部屋に帰り冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコップに注ぐ。 「あっ」  うっかり手を滑らせテーブルの上が水浸しになってしまった。 ――ああ、もう! 何してんのっ!  突然脳裡に蘇るヒステリックな女の声。昼間あんなものを見せられたからだ。私は自分を両手で抱き締めて肩を震わせる。 「ふ、ふふ、ふふふ……あははは」  いつの間にか大声で嗤っていたらしい。壁を叩くドンっという音が我に返る。隣に筒抜けだったのだ。頭のおかしい女だと思われたかもしれない。テレビの音か何かだと思ってくれるといいのだが。慌てて引き出しからタオルを取り出しテーブルを拭く。 「花見だなんて、冗談じゃない」  あの街で過ごした悪夢のような日々が蘇る。そしてふと思った。結局あの女はどうなったのだろう、と。
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