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理沙は機嫌が悪いと罵倒するだけでは飽き足らず、お尻を引っ叩いたり服の上からではわからない場所を思いっきりつねったりしてきた。かと思えば機嫌のいい時には私を連れ出して一緒に散歩しようなどと言い出す。少し情緒不安定なところのあるよくわからない女だった。
私が小学五年生になった春、どうしてそんなことになったのかは覚えていないが街で有名な桜並木を二人で歩いていた。着信を知らせる音に理沙は人通りの多い桜並木を避け裏道を歩いていく。少し行くと一本だけ貧相な桜が植わっておりはらはらと花びらを散らせていた。人が群がる桜並木と違いあたりは静まり返っている。
「わぁ、綺麗」
うっとりと見上げる私を他所に理沙は桜にもたれ誰かと電話をしていた。キャハハ、と甲高い声が辺りに響く。私はずっと桜を眺めていた。どのぐらい経ったのだろう、いつの間にか通話を終えた理沙が「行くよ」と声をかけ踵を返す。慌てて後を付いていこうとするとなぜか彼女は振り向いて首を傾げた。
「あんたさ、どうして桜が毎年こうやって花を咲かせるか知ってる?」
さぁ、と答える私を見て「桜の下には死体が埋まってんだよ」と言って嗤う。後からそれはとある小説を元に生まれた都市伝説だ、というようなことも聞いたが当時の私にとってはとても恐ろしい話だった。
「なんで? なんで桜の下に埋まってるの?」
思わず聞き返すと理沙は栗色の髪を指にクルクルと巻き付けながら面倒臭そうに「さぁ、見つかりにくいんじゃないの? みんな桜見る時は上ばっか見てるだろうし。地面なんて見ないじゃん」とだけ言いさっさと歩き出した。
(そっか。桜の下に埋めたものは見つからないんだ)
私はそのことをよぉく覚えていることにした。
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