3.悪戯

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 その翌日、ちょっとした事件が起きた。しとしと雨が降る何とも憂鬱な日だったのを覚えてる。土曜だったが休日出勤で父は不在だった。 「ちょっと、あんたまた違う棚にコップ入れたでしょ!」  理沙はズボラで家事などほとんどしない癖に変なところにこだわりがある。本人にしかわからないそんなこだわりを私が理解できるはずもなくよく地雷を踏んでいた。 「あ、ごめんなさい」  その日は特に機嫌が悪かったのか理沙は持っていた雑誌で思いっきり私の頭を引っ叩く。その衝撃で私は手に持っていた大好きなお菓子を床にぶちまけた。キーキー声で騒ぐ理沙と泣きじゃくる私。理沙は「ちゃんと掃除しとけよ!」と言い捨てどこかに出掛けてしまった。ようやく泣き止んだ私は悲しいような腹立たしいような気持で床を片付ける。ふと視線を上げるとテーブルの上に置かれた理沙の指輪に目が止まった。 (あの女、父さんの言いつけ破ってる)  男にでも会いに行ったのかもしれない、とは当時思わなかったがその代わり私はちょっとした悪戯を思い付いた。 (指輪、隠しちゃえ)  私はそっと指輪を掴み急いで家を出る。どこに隠そう? 決まってる。絶対に見つからない場所だ。指輪を隠し急いで帰宅したが理沙はまだ帰ってきていなかった。そろそろ父の帰宅時間だ。理沙も父が帰るまでには戻ってくるつもりだろう。指輪がなくて真っ先に疑われるのは私。そう考えると急に怖くなってきた。 (そうだ、お父さんを迎えに行こう。傘持ってないかもしれないし)  私は父の分の傘を持ち駅に向かう。雨はずいぶん激しくなっていた。
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