刻印

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 3つ年下の、今年高校に入学した俺の恋人はとんでもなく可愛い。  最初に出会った小学生の頃なんて、本気で女の子と間違うくらい目が大きくて色が白くて可愛かった。  困ったことに、その可愛い俺の恋人は自分の可愛らしさをイマイチ認識していない。だから…。  自動ドアの開く音がして視線をそちらに向けた。  長くなった陽も暮れて、夜も更けてきた自分家のコンビニで俺は今、店番をしている。  うわ、  あいつ、またあんな格好で…っ 「りっくん! ね、新発売のマンゴーのスイーツ、まだある?」  大きめの、ボートネックのボーダーTシャツにハーフパンツ。そして素足にサンダル。徒歩5分弱のコンビニに行く格好、として間違ってはいない、が…。 「たぶんある、…つか(そら)、暗くなってから来んのは危ないって、いっつも言ってるだろ?」  幸い他に客はいない。  レジを出て、空と一緒にスイーツの棚に向かいながら、危機感のない恋人を見下ろした。 「だって、さっきCMやっててね、お母さんも美味しそうねって言ってて。…それに」  ちらっと俺を見上げる空の頬がほんのり赤い。 「…りっくんに、会いたくなっちゃったんだもん」  えへへと笑って見上げてくる長いまつ毛の大きな目。  そんな顔でそんな可愛いこと言うんじゃねぇよ  今すぐ抱きしめて、空を部屋に連れて行きたくなる。  見下ろした空のボートネックから鎖骨が覗いていた。  あ  この前付けた痕、見えてんじゃん  …まあ、上からじゃなきゃ見えねぇからセーフ、か? 「あ、あった。よかったー、2つある。お父さんの分ないけど」  透明の丸い容器を2つ取った空に、そこに積んであったカゴを取ってやったら、慎重に2つをカゴに並べて入れた。  視線を落としたら空の細い脚が目に入った。  とくん、と胸が跳ねる。 「…空、他にも何か買うの?」  あの脚が、腰に絡まる感触を思い出してしまった。 「あ、うん。ミントタブレット買ってくー」 「コンビニで買うと割高だぞ?」 「じゃ、今から駅前のドラッグストア、行ってもいい?」 「ダメ、絶対」  めっ、て睨んでやったら「でしょ?」って言いながら笑ってる。  空はこうやって、夜に俺ん家のコンビニに来て、俺に叱られるのを楽しんでいるようなところがある。  …俺は、本気で心配してんだけど。 「空、今日も家に着いたらメッセージ送るんだぞ?」 「うん。でもりっくん、心配しすぎだよ?」  女の子じゃないんだから、って笑って言う顔はその辺の女よりずっと可愛い。 「せめてさ、脚出さずに来いよ」 「なんで? 暑いよ?」  空が無邪気に訊き返してきたところで、自動ドアが開いて二人連れの客が入って来た。  とりあえず会計を済ませて、空が持って来たエコバッグに商品を入れてやった。  その間にまた新しく客が入って来る。 「空、マジで気を付けて帰るんだぞ? いいな?」  背を屈めて、空に目線を合わせて言い含める。  店番なんか放り出して、空を家まで送って行きたい。  顔を見られるのは本当に嬉しい。でもその何十倍も、夜道を歩く空への心配が湧いてくる。 「うん。速足で帰るよ。またね、りっくん」  バイバイって、白い手を振って帰っていく、誰よりも可愛くて、誰よりも愛しい俺の恋人。  …客がいなかったらなぁ。  帰っていく後ろ姿を店から見守れるのに。  でも無情にも今、弁当を持った客がレジに向かって来ている。  自動ドアが閉まってしまったら、反射でもう外は見えない。  空が危ない目に遭いませんように。  神様仏様、お願いします。  心の中で手を合わせた。  ほんと、空は自分の可愛らしさをもうちょっと解った方がいい。  脚も細くてすげぇ綺麗だしさ。  …見せんなよ、他のやつに…  営業用スマイルの裏で舌打ちする。  …今度、付けてやろうか、あの白いふくらはぎに。  ハーフパンツなんか履けないように。  空が痛がるくらいキツく吸って。  俺のものだぞっていう、赤い刻印を。  了  
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