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第1話
片想いの相手の幼馴染が、同じ学校に入学してくるという。
「あいつは人一倍努力家で、一人でため込んでしまうところがあるんだ。まあ、妹みたいなもんだよ」
あいつから聞いたその子は、とてもまじめで勉強のできる子。そんなイメージのまま、ひとつ下の学年の入学式を迎えた。
「はじめまして、あなたが”相園先輩”ですね。智也から聞いてお会いしたかったです」
「立花くんの幼馴染ちゃんだ!いおりちゃんね。めっちゃ可愛い!!わからないことは私に何でも聞いて!”まな先輩”でいいからね♪」
「はい、”まな先輩”」
「相園は親友なんだ、同性だと聞きやすいだろ?仲良くしてやってくれ」
”妹みたいなやつなんだ”と紹介された彼の幼馴染は、それはそれは可愛らしい女の子だった。
髪は腰まで届くさらさらストレート。色白の小さい顔にぱっちりとした目。長い目まつ毛にピンクに色づいた唇。守ってあげたくなるような華奢な女の子だった。
聞くところによれば、ちゃんとした家のお嬢さんらしい。
一方で私は。
女子の中では身長が高い方だし、毎朝くせ毛で手を焼いているし、オシャレは好きだけと素材を見れば比べ物にならない。
何より、兄妹のよう、と言いつつ並ぶ二人の姿はとてもお似合いに感じた。なんて言うのか”しっくり”くる。初めて二人の並ぶ姿を見た私がそう思うのだから、周りがなんて思うのかは一目瞭然だった。
私_相園真奈は、同じクラスの男子_立花智也とひょんなことから仲良くなった。背が高く温厚な性格で、目立ちはしないがクラスの中心に巻き込まれるタイプ。貧乏くじを引いているようで実際はうまく回避する様子を、私は入学してからしばらく観察していた。
はやり物が好き、楽しいことが好き。そんな私は友達も多く囲まれる方で、クラスの中心メンバーと一緒にいることが多かった。立花くんは表立つことを避けているため、なんとなく私に対して一線を引かれているように感じた。
「あ」
「え、立花くん?」
次の部活の集まりで食べる用のおやつを探して隣駅の近くにあるパティスリーに入ったら、同じクラスの彼が店の制服を着てそこにいた。
うちの学校はバイトが禁止なわけではないが、気まずそうに「黙っていてほしい」と言われて、「いいよ」と承諾したのがきっかけ。
彼は製菓学校に進学したい夢があり、この店でバイトをしているらしい。部活にも所属しておらず、そそくさと下校するのにはそんな理由があった。
「学校のやつには誰にも言ってないんだ。バレたら面倒だからな」
「わかる~『お菓子ちょうだい』とか『ケーキ作って』とか言われかねないよね」
「話が早くて助かる。相園はそっち側だと思ってたけど、俺の勘違いだったな」
「うわ、私たち話したこともないじゃん。心外だな~」
いたずらっ子のような無邪気に笑いかけられて、心臓がうるさくなった。普段の立ち振る舞いが陽キャと呼ばれる部類にいることは知っている。どのカフェのスイーツがかわいいだの、新作のコスメがかわいいだの教室で話していたら、お菓子を作れる人間に対して図々しいことを言いそうではあるが、そういった印象を持たれていることは少しショックだった。
彼が言った”面倒”に同意できたのは、私が甘いものが苦手だから。自然にポロっと「わかる」と言ってしまった。それを製菓を志している人の前で言うことはない。ほかの女子たちに合わせるのが、時々しんどくなってくるのだ。
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