Side:智也

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 誤算だったのが、以前より相園が俺との時間を設けなくなったことだ。精力的ではなかったはずの部活に顔を出してみたり、先輩が引退してやりやすいからと去年まで義務としてやっていたライブ演奏を増やしたことだった。お互い学校生活が充実しているといえばそうだが、息抜きにもなっていた二人で過ごす時間が減ったのは精神的にもつらいものがあった。  特に不調を感じさせずに要領よくこなせるところが、面倒ごとを回避しながらほどほどに関わっていく俺の処世術のばずだ。それでもなんだかんだ理由をつけて、生徒会の仕事の手伝いを頼むと、彼女は「しょうがないなぁ」と言って生徒会室に来てくれることもあった。  去年みたいに一緒に居る時間が減ったとしても、友人としての距離感は変わらずむしろ気の置けない親友の立ち位置をキープできている。伊織に構いすぎて、今度は会長と付き合っているのかといううわさが出始めているらしいが、事実無根なので知ったことではない。今まで相園の周囲への見えない抑止力がなくなっていることも問題だった。  親友への告白の場面が増えていると噂には聞く。ライブで表に出たことや、彼女が普段熱中しているSNSの自撮りなど女子高生らしいところが、クラスのカーストトップにいる所以でもある。モテるのは当然だろう。  生徒会へはあらゆる部活動の申請の類も目にするので、掲示物の申請経由で男女混合のミックスバンドになったことを知って動揺した。入ったのは同じく陽キャの後輩らしくて、本人の口からもちらほら聞く。陽気で楽しいやつらしい。  だんだんと”親友”のはずの相園へ抱いていたもどかしい気持ちが形を成したのは些細なことがきっかけだった。あれは確か文化祭の準備だったと思う。  新生徒会の初仕事でもある文化祭はそれはそれは慌ただしかった。流れで相園が手伝ってくれることがあったが、どの生徒も遅くまで準備しており自分もそれは避けられなかった。バイトの時間は減ってしまったし、お菓子作りより無心で作業できるパン作りをストレス発散でする始末だった。 「珍しいね。立花くんがパン作ってくるなんて」  放課後の差し入れとしてストレス発散の成果を持ち込むと、相園は目を丸くして驚いていた。安く手に入る食材で作ったマヨコーンの総菜パンは他のメンバーにも好評で、時間帯と味を考えれば当然かと一人で納得した。いつもなら写真を撮るからとすぐに食べない相園が「お腹すいてて忘れちゃった」と言うほど。美味しそうに頬張る姿が、なぜか頭から離れなかった。 「じゃあそろそろ軽音部戻るね!パンありがと!」 「助かったよ。そっちもあんまり遅くなるなよ?」 「それ立花くんが言っちゃう?じゃあね」  生徒会室から見送ってドアを閉めようとした矢先に「まな先輩!!」と相園を呼ぶ聞きなれない男子の声がした。見送った先を覗き込めば、彼女と同じ身長くらいの細身の男子と何か話し込んでいた。どうやらあれが同じバンドを組んでいる後輩らしい。「りょうちゃんもこれから?」と表情をころころと変えながら話し込んで、おもむろに二人で歩きだした。部室の方へ行くのだろう。 ("りょうちゃん"か……あれが自然だよな)  同じクラスとはいえ、所属している団体やグループも違う中で”仲がいいから”だけではあまりにも不自然だ。あれこれ理由を探して相園と接点を持とうとしていた事実を確信してしまってハッとする。 (なんだ、そうか)   好きなのだ、相園のことが。”親友”なんて勝手に名前を付けていたのは俺の方じゃないか。さっきの光景にもやっとしたのも、伊織が呼ぶ「まな先輩」に羨ましさを思えていたのも自覚する。二人が仲良くなっていいな、だなんてきれいごとだけではなかった。自分が呼べないまた呼ばれない下の名前でのやり取りに、知らない間にそんな気持ちになっていたのか、とひとりで納得した。 (これからはもっとわかりやすくしないとダメか)
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