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第2話
立花くんの幼馴染_千堂伊織ちゃんが入学してから二人で過ごしていた時間は三人にで過ごすようになった。
お嬢さん然とした伊織ちゃんは、クラスになかなかなじめないようで、本人は強がっているが気にしていることを言葉の端々から受け取れた。加えて学年トップの成績のようで浮いてしまうのも無理はない。
私たちと喋っている柔らかい様子を見て、声をかけてくれる同級生も徐々にではあるが増えてきているようだ。
「それでね、今日放課後に行きたいお店があるんだけど」
「ごめーん!私、今日部活なんだよね」
「幽霊部員なのに活動はあるんだよな」
「楽器あんまり触らないだけです~みんなでお菓子持ち寄って喋ってるだけでも思い出なの~」
「わかったわかった。じゃあ伊織、この店はまた今度にするか」
「そうだね、また予定が合うときに行こう」
立花くんは言い返した私を軽くいなして、ちょっと寂しそうに眉を下げて小さく笑ういおりちゃんの頭をポンと撫でた。その光景に無意識で唇に力が入る。
兄が妹を構っている、と思えたらどんなにいいか。可愛いものを見て、自然と笑みが溢れるように、立花くんの横顔からでも目元が緩んでいるのがわかる。
「え、いいよ。二人で行ってきなよ~今度の時用にまたお店調べてくるね!」
なんとなく、お似合いの二人に挟まれる構図が学校以外でも起こるのは嫌だった。
それでも三人でカフェに行くことはある。去年までまっすぐバイト先へ向かっていた立花くんはなりをひそめているくらいには。
けなげに私も誘ってくれるいおりちゃんには悪いがそれとなく話を避けて、学校の外では3人にならないように努めていた。
たまに伊織ちゃんへのフォローとして、二人で放課後にお茶をする。もちろん伊織ちゃんとも仲良くしたいから。
育ちの良い彼女はコーヒーよりも紅茶が好きで、専門店のようなカフェに連れて行けばそれはそれは喜んだ。毎回イチゴのスイーツを一緒に頼むのも忘れない。
「わたし、高校生まで寄り道が禁止だったんです。友達とこんな風に放課後を過ごすことに憧れていました」
「そうだったんだ……立花くんとは?スイーツ巡りしなかったの?」
「智也とは、小さいころに遊んでからはあまり会いませんでした。わたしが一回引っ越してしまったのもあるんですけど、まさかお菓子を作れるようになっていたなんて」
2年になってから、立花くんとのカフェ巡りは実質無くなった。二人で行く意味がもうないように思える。
「すごいよね。多分いおりちゃんに食べさせてあげたかったんじゃない?」
「そうでしょうか?」
「絶対そうだよ。学校に作ったお菓子をこっそり持ってくるなんて、去年は絶対にやらなかったし」
いいな、いおりちゃんは。好きな人の作ったお菓子を美味しそうに食べれるのだから。私はどうして甘いものが好きになれないんだろう。
千堂伊織が入学してから半年。優秀すぎる後輩は学年トップを維持し続けて、なんと異例の1年生の生徒会長として当選した。上級生候補のスピーチが適当に聞こえるほど、彼女のスピーチや展望はしっかりとしており、何より完璧な容姿に加えてカリスマもあったようだ。
学校中がびっくりしたニュースが駆け巡った最中、なんとあの目立つことを避けていたはずの立花智也が、伊織の推薦を受ける形で会計として生徒会入りをしたのだ。
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