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第3話
1年生のころから彼に抱いていたぼんやりとした感情は、完璧な幼馴染の登場でくっきりと大きくなって、溢れそうになって落ち着かない。
彼女でもないのだから、一緒にいる時間が減っていることに寂しさを覚えるのは私の独りよがり。
『友達だから』の言い訳は、学校において万能の言葉だ。だからこれは自己満足。たとえ惨めでも少しだけ足掻いてみた。
部活動が適当なのをいいことに、メンバーでもない私が生徒会室に入り浸ることは簡単だった。
一緒にいることが多いから、いおりちゃんも私に相談してくれたりその流れで立花くんの仕事を手伝うことが増えた。友達作りは得意だから、他のメンバーとも角が立たないように交友を広げる。
それでもやはり手伝うことのできない仕事はある。年が明けたら年度末にむけた仕事が増えるようで、なんとなく手を出すのを控えていた。
「最近まな、生徒会室行かないよね」
「そうっすね、最近よくこっち居ますね」
「ええ?ちゃんと軽音部なんだけど~もうすぐライブあるし」
「ちょろっと練習して出来そうなやつにしたっすもんね」
「そーそーお菓子がメインじゃんうちらは」
幽霊部員を自称しているメンバーが多いため、メインである楽器演奏及びライブはほとんど思い出作りであり、部室でお菓子を食べながらおしゃべりに興じている。
学校に目を付けられない程度の最低限の演奏活動をすることは決めていて、そろそろ最高学年の卒業ライブが控えている。
「そういえばさ、あの噂ってほんと?」
「生徒会長ちゃんと立花くんが付き合ってるってやつ!」
「会長も可愛いから人気あるけど、二人並ぶと世界観できあがってるよね」
「1年でも話題っすよ。会長目立つし」
購買で買ってきたジュースを片手に持ち込んだお菓子で他人の噂やコイバナが捗る。最近は学内でもこの二人はもっぱら噂の中心人物だ。
「自然に名前で呼び合ってるしね。ラブラブじゃん」
「あ~なんか立花くんとは幼馴染らしいよ。ちょっと離れてて、高校でまた再会!みたいな」
「うわ~憧れる~」
「立花くんファン多いからね。会長の登場で今年のバレンタイン大変なことになりそう」
去年の時点で、何か月かに一度は告白されていたように思う。全部を把握しているわけではないからもっと多かったはず。
しかも今年はいおりちゃんの教室に顔を出していることもあり、後輩からの好感度も高そうだ。同世代だとしても落ち着いた異性の方が魅力的に見えてしまうんだから。
「一時期さ、真奈と付き合ってるのかと思った。でもあの調子じゃ、会長だろうなぁ」
「だよねぇ。本人は妹みたいに接してるつもりでも、周りと違う時点で確定だよね」
「真奈がそう言うなら信ぴょう性あるわ」
去年までは、私にも望みがあるのではないかと思ったりもしていた。噂が少し経つくらい二人でいる機会が増えていたし、隣に居られる距離感や、私だけに見せる表情に一挙手一投足にドキドキした。
「え、そうなんすか?おれ1年だからその噂知らなかった。ずっと会長絡みの人かと……」
「けん制してんのかってくらい一時期噂だったけど、本命は別にいたのか~」
「ふーん……なんか思わせぶりな人っすね。真奈先輩オトコの趣味悪っ」
この空間で唯一の男子であるりょうちゃんが顔をしかめてクッキーを齧っていた。ここに居るメンバーでさえ、”仲がいい”ことは知っているが、私が片想いをしていることは知らない。少し乗って茶化すのが最適解だ。
「どーせ私は都合がいい女ですよ~!藪蛇はカンベンだし、今年のチョコはみんな分だけにしよ~っと」
「あざーっす!ごちそうさまでーす」
「りょうちゃん一人だけ男子だからってずるい!りょうちゃんもチョコ用意してよね!?」
「わ、わかりましたよ……」
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