最終話

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 昼休みになり、お弁当セットを持って教室から廊下をのぞいた。左右を見て立花くんがいないか確認をする。  妹の変化に目ざといシスコン気味のお兄ちゃんのごとく、女子会開催日に限って事前に声をかけてくるのだ。  たぶんいおりちゃんは隠し事が下手で、立花くんの前でもそわそわしているのだろう。それは私にも感じ取れて、手を差し伸べるタイミングが分かりやすくて助かる。  教室からはどんどん人が出ているし、購買に向かう流れもある。見当たらないようなのでさっさと移動した。 「お、どうしたんだ?昼飯か?」  完全に油断した。今日は先回りパターンか。  何も考えずに開けた生徒会室の扉の先には、先ほどかいくぐったと思った立花くんがすでにいた。  電気もついてなかったし、でも鍵は開いていたか。自分の浅はかさに眉をしかめる。 「うん。なにか探し物?」 「ああ、でもちょうど見つかったんだ」 「よかったね、私これからいおりちゃんと二人でランチなんだ~ふふ」  向かい合わせになってる机に座って弁当箱を広げていると、 「伊織なら来ないぞ」 「へ?」 「俺が伊織に、相園を誘うように頼んだ」 「……なに、それ?」  だったらドア開けた後の「どうしたんだ?」はとんだ茶番である。なんということだ。 「最近俺を避けてるだろ。昼飯も一緒はだめか?」 「いや、そもそも学校ではそんなに絡んでなかったじゃん。三人とかでなら……」 「そうだな。でももういいだろ、昼飯にしないか?お前に食べてほしいものがあるんだ」  軽くあしらわれて自然な流れで目の前に座ってくる。カバンからパン屋の袋と、今朝見た紙袋が出てきた。こんな風に二人で学校で食べることなんて去年はしたことない。なのに、どうして。 「お、お菓子だったらご飯食べてからでいい?甘いものは食後に食べたいな」 「お菓子じゃない」 「え!?」 「昨日食べてもらおうと思ってたんだ。ここに来なかっただろ」 「用事なければ来ないよ、私はメンバーじゃないし。部活もあるんだから」 「…………」  避けていたのは事実だけと、毎日会う必要はないはずだ。立花くんにしては少し棘のある、責めるような言い回しだったが、正論をぶつけたら黙ってしまった。 「なんかちょっと怒ってる?」 「怒ってない」 「いや……まぁいいや、ありがたくいただこうかな。写真撮ってもいい?」 「いいぞ」  ラッピングされたビニールに入っていたのはカップケーキのようだった。うっすら焼き目のついた記事に色鮮やかな具材が散っている。これでお菓子じゃないとはどういうことなんだろう。 「なんだろ、キッシュみたいな色合いだね?」 「ケークサレっていう軽食系ケーキの一種だ」  そのまま齧っていいぞ、と言われて口に含むと優しい口当たりだが香ばしい味がする。 「へぇ!パプリカとかドライトマトも入っててカラフル!混ざってるベーコンとオリーブが美味しい!」 「喜んでもらえてよかったよ」 「いおりちゃんも昨日はちょっとしたパーティーみたいだったって言ってたけど、これはテンション上がるね!昨日もね、軽音部でも変わり種用意したら……」 「これはお前にだけだよ」  純粋に感想を述べていく私は、久しぶりのやりとりになんだか興奮してしまってペラペラと喋りだす。昨日のことを話そうとした途端、強めの声で言葉を遮られた。  思わず目を合わせてしまうと、見慣れない真剣な視線とぶつかって不自然に下を向いて逸らした。
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