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Side:智也
「え、立花くん?」
俺の秘密を知ったそいつは絶対に関わることがないと思ってた人物だった。
周囲に黙って始めたアルバイトは、製菓学校に通うための前身としてパティスリーの販売員。動機を聞いた店長は時間があるときやバイト終わりに設備を貸してくれることもある。
そんなわけで部活や委員会に参加もせず、放課後はまっすぐアルバイトへ向かう日々だからカウンター越しに目が合った同じクラスの女子に思考が停止した。
いつもクラスの中心_目立つ女子のグループにいて、周りに人が絶えないようないわゆる一軍。ゴテゴテしたケースに包まれたスマホを片手に入店してきたのは、同じクラスの相園真奈だった。よりにもよって彼女みたいなタイプの女子にバレてしまうことになるなんて、面倒になる予感しかない。向こうもびっくりしているようで先に口を開いたのは俺だった。
「あーー……その。クラスのやつらには黙っててほしいんだけど……」
「あっ、うん。いいよ。ねぇ、その焼き菓子セットひとついい?」
向こうもあまり関りのないクラスメイトとの気まずい雰囲気に逃げるように、ディスプレイの中にある商品を指さしてそそくさと店を出て行った。
******
翌日教室へ行くと、特に変わった様子はないので、相園は約束通り黙っていてくれているようだ。正直以外だ。すでに内内でバラされてもおかしくはないようなイメージだったから。
昼休みの終わりごろにたまたますれ違いざまに声をかけてお礼を言った。ついでに昨日バイト終わりに作ったマフィンも渡しておいた。
「学校のやつには誰にも言ってないんだ。バレたら面倒だからな」
「わかる~『お菓子ちょうだい』とか『ケーキ作って』とか言われかねないよね」
「話が早くて助かる。相園はそっち側だと思ってたけど、俺の勘違いだったな」
「うわ、私たち話したこともないじゃん。心外だな~」
私への風評被害めっちゃウケる、とか言いながら相園はけらけらと笑った。
「お菓子、わざわざありがとね。学校から少し遠いし、もう行かないから安心してよ」
「あ、待って」
彼女は少しバツが悪そうにそういうと、足早に教室に戻ろうとするのを俺は無意識に止めていた。
「連絡先、交換しないか?」
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