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「これで少しは信じる気になったか?」
望月は言った。
望月が私に見せたのは、先日、海外の由緒ある学術誌に掲載された論文だった。
その論文によると、キノコは電気信号を使って会話をしており、その会話にはちゃんと文法もあって、単語と文法によって行われている事が分かったという。
「菌類だってここ迄できるんだ。植物だったらこんな程度のものじゃないってのは想像がつくだろう? 植物は電気信号なんて原始的なものは使っていない。奴らは電流でも電磁波でも音でも化学物質でもない何かを使って連絡を取り合っているんだ」
望月は続けた。
「森林浴ってのがあるだろう。あれは今でも解明できていない。森林に入ると、明らかに人間の体調は変化する。血圧は下がり脈は減る。副交感神経が働きだして人間は落ち着き心が休まる。つまり癒されるんだ。この理由が分からない。一時、木々が出すフィトンチッドという物質がこの効果を生んでいるんじゃないかと言われたが、それを実験室で人間に吸わせても森林浴の効果は出なかった。その他木々の間を通る光だとか人間に聞こえない音だとか様々なものを、いろんな観測計器を持ち込んで研究したが、結局分からずじまいになってる。まだ人間の科学では解明できていない何かがあるんだよ。それを植物は使ってるに違いないんだ」
ここは、保険の代理店を営む私の事務所。
突然やってきた望月は、事務所に入るなり私に雑誌のコピーを渡し、今すぐ読めと言ったのだ。
「まぁ、これを読めば、キノコが会話らしい事をしているというの分かるけど、だからと言って植物がそれ以上の何か…未知の通信をしているというのは飛躍し過ぎじゃないか?」
私は言った。
「今の科学で証明できないものは全て、最初は飛躍し過ぎと言われるんだよ。何しろ分からないんだからな。でも、例えばイワシが何万匹も集まって大きな魚の形を作るのだって、何かで連絡し合ってない限り無理だろう? これはまだ我々が知らない何かの通信手段がある事を示唆してる。植物もそれと同じか或いはそれと似たような何かで連絡し合ってるに違いないんだ」
「なんで連絡し合ってると分かるんだ?」
「例えばある木の葉に虫が付いた時、周りにある、まだ虫のついてない木の葉の樹液が苦い味に変わるんだ。これは虫に付かれた木が周りの木に危険を知らせた、つまり何らかの通信をしたと考える他ないだろう。彼らはただそこに突っ立って、咲いて散ってを繰り返してるんじゃない。本当は高度な知性を持って我々を監視してるんだよ」
「高度な知性? 監視か…。まぁいつも言ってるけど、話として、いや、一つの仮説としては確かに面白いと思うけどな」
私は苦笑交じりに言った。
「全くお前って奴は。あのな、こういう実験もある。ある人が花を二つのグループに分けて育てたんだ。そして一方のグループには毎日『愛してるよ、綺麗だよ』と肯定的な言葉を掛けながら育て、もう一方のグループには『死ね、枯れてしまえ』というような否定的な言葉を毎日浴びせたんだ。結果、どうなったと思う? 愛してると言われた花のグループは見事に美しい花を咲かせ、死ねと言われ続けたグループは花をつける前に枯れてしまったんだ。これなんか、植物が人間の言葉を理解しているという証拠じゃないか。いや、俺なんかが考えると、言葉というより人間がその言葉を発しようとする時の感情の信号を受け取ってると思うがな」
「ほんとかよその話。都市伝説の一つだろ」
「お前には呆れるよ。そうやって多くの人間が今迫っている人類の危機に気付かない間に、彼らは着々と作戦を進めてるんだ。気付いた時はもう遅いんだよ」
「まぁ、少し落ち着け。今、コーヒー入れるから」
私は興奮する望月をひとまず応接のソファに座らせた。
望月は高校時代の同級生だ。
同じ大学に進学し、私は経済学部、望月は工学部へ進んだ。
大学卒業後、私は大手保険会社に入社し、望月は大手電機メーカーに就職した。
社会人になってからも時々会って一緒に飲んだりしていたが、ある時から望月は変な事を言うようになった。
植物が人類滅亡を企んでいるというのだ。
荒唐無稽な話である。
高校時代は数学と物理が得意だった望月がどういうきっかけでこの考えに至ったのかは分からない。
望月の主張は大雑把に言うとこうだ。
地球上に生命と呼べる初めての単細胞生物が生れた時、それらは好気性細菌(後にミトコンドリアになる)を取り入れたものと、好気性細菌の他に光合成細菌(後に葉緑体になる)まで取り込んだものの二つのグループに分かれた。
前者は動物に、後者は植物に進化して行く。
その時に両者の間で役割分担の契約が結ばれたというのだ。
好気性細菌だけを取り込んだグループは生きる為の栄養を外から摂らなければならないから、やがて自分たちは自在に動く体を持つように進化するに違いない。
一方好気性細菌と光合成細菌の両方を取り込んだグループは、自分で栄養を作れるから、自分たちはおそらく自由には動けない体に進化するだろう。
だからそこまで進化した時、動物は地球上を能動的に動き回り、至る所に植物の種を運び蒔く役割を持ち、一方の植物は動物たちの食料になるという役割を果たす。
また植物は動物にただ食べられるだけでなく、いつも動物を監視し、もし動物が、行き過ぎた行動によって植物に子孫存続の危険を及ぼすような場合は、その動物を絶滅させる。
これはお互いが共生して行く為の決して破られない「自然の掟」である。
この掟に従ってずっと人間を監視してきた植物は、今の人間の行動を子孫存続の危機と判断し、人類を絶滅させる方向へ動き始めたというのだ。
「まあ、仮説としてはあり得ないとは言えないけど、その説を裏づける根拠みたいなものは何もないよな」
私が望月から始めてこの説を聞いた時、そのバカバカしさに呆れながら、それでも何とか友人のプライドを傷つけないよう最大限に気を使って言った言葉がこれだった。
「お前は花粉症持ちか?」
コーヒーをすすりながら、望月は言った。
「いいや、お陰で俺は全然大丈夫なんだ」
「そうか、じゃぁ、分からないだろうな。花粉症は年々酷くなってるんだ。そもそも花粉症なんて昔はなかった。これは現代になって始まったものだ」
「それは植林事業で杉ばっかり植えたのが原因だろ? 植林事業で植えた杉が育って花粉を大量に出すようになったのが最近だから、花粉症も最近酷くなったんだよ」
「何を言ってる。お前は植物の作戦にまんまと引っ掛かってる連中の一人だな。あれは多くの種類の花粉を蔓延させるための陽動作戦だったんだ。その証拠に最近杉は花粉症対策で殆ど伐採されたじゃないか。杉が減って違った種類の植物が植えられた。それで花粉症は良くなったか? 花粉症の人は減ったか? いやむしろ増えてる。始めは杉の花粉が原因だなんて言ってたのが、最近はどうだ、ブタクサだ松だなんだとありとあらゆる花粉がアレルゲンだと言われるようになったじゃないか。そんな話聞いてなかったぞと誰も言わないのが不思議だよ。これおかしいと思わないか? それまで何でもなかった植物の花粉が突然花粉症を起こす花粉になったんだぞ」
「あ、まぁ、そう言われればそうだけど…」
「植物自身が花粉を変えたんだよ意図的に。これから益々酷くなるだろう。今のようなものじゃなくて、命に係わる症状が出るようになる。例えば咳が止まらなくなるとか、肺炎を起こすとかな。それは人類絶滅作戦の一つだ」
「花粉症に関しては、いろんなところで研究されてる筈だろ? 花粉が変わったならそういう発表とかあるんじゃないのか?」
「まだ分からないのさ。みんな、今の科学で分かってる事が全てだと思ってるようだが大間違いだ。まだ何も分かってないのさ、人間なんて」
「まぁ、それはそうだが…」
「お前も早く未熟な科学による洗脳から解き放たれて、危機感を持て。本当にヤバい状況なんだ。今、何とかしないと我々人類は確実にやられる」
コーヒーを飲んで少し落ち着いた望月はそう言い時計を見ると、また来ると言って事務所を出て行った。
実のところ私は、何度か望月の話を聞いている内に、もしかしたらそういう事もあるんじゃないかと思い始めていた。
そういう視点から考えると、食物連鎖のピラミッドが復元性を持つ事も補強できる。
通常、食物連鎖のピラミッドでは、例えば草食動物が増えると、食べる量も増えるから餌となる植物が減る。すると、餌が少なくなってしまった草食動物は全数が生きていけなくなって減り、食べられる量が減った植物はその数を元に戻す。
このようにして全体の個体数は、何かで一時的に変動しても一定に保たれると説明される。
ただ、良く考えるとこれは、多くなった草食動物が、個体数を減らす前に草を食べつくしてしまったら瓦解するという、かなりリスキーなフィードバックだ。
だが、絶滅の危険を察知した植物が「意図的に」毒素などを含んだ樹液を出して動物を殺し、個体数を減らしていくのなら話は別だ。瓦解する可能性は限りなくゼロに近づく。
「もしかして望月の言ってる事は本当なのかも知れない」
そんな望月の訪問から十日ほどが経ち、季節は一段と春らしくなっていた。
その日も春のうららかな日が降り注ぐ穏やかな日だった。
事務所に一人いると寝てしまいそうになるほど心地よい。
「こんな日に閉じこもっているなどもったいない」
そう思った私は、今日一日何のアポイントもないのを良い事に、一人で花見に出かけた。
事務所の近くに桜の名所がある。
桜は正に満開だった。
川沿いに百本近い桜が並び、その全てが満開に花を咲かせている姿はもうこれ以上ないという美しさだ。
人出も多く、昼間から宴会をやっている一団もある。
桜にこれほど心を奪われるのは何故だろう。
それは、桜の散り際だという人がいる。
確かに桜は、その散り際が潔い。
そしてそこには儚さも漂う。
これが日本人の精神性に合うのかも知れない。
ここに咲き誇っているのはソメイヨシノ。
桜にはヤエザクラ、カワヅザクラなど他の種類もあるがやはり桜はソメイヨシノだ。
そんな桜を満喫し事務所へ戻った。
私は小さな雑居ビルの二階を借りて事務所にしていた。
ビルの入り口を入って突き当りにエレベータ―があるのだが、私はいつも入り口を入って直ぐの階段を使っている。二階ならその方が速い。
いつものようにビルに入ろうとすると、ドアのところに小さな白い花が一輪咲いていた。
このビルの床は古くて一部が割れ土が見えている。そこに根を張りコンクリートの隙間から伸びて花を咲かせたようだった。
その小さな花は四枚の白い花弁を持ち、こんなところでも精いっぱい健気に咲いていた。
暫し見とれていたが、ふと、花見に出る時こんな花は咲いていなかったと思った。
小一時間で咲いたのか。
私は、花の生命力に改めて感銘を受けた。
そんな思いで二階へ上がると、事務所前に望月が待っていた。
「おう、コーヒー飲みにまた来てやったぞ」
私は苦笑しながら鍵を開けた。
「こんな日に仕事とはご苦労様だな」
望月は、ソファに腰掛けると、コーヒーメーカーをセットしている私の背中へ声を掛けた。
「いや、仕事で出てたんじゃない。花見に行ったのさ」
「なに? お前…」
「え? どうかしたか?」
私は望月の方へ振り向いた。
「お前って奴は…。そんな危険な事をしたのか」
「危険? 花見が危険だってのか?」
「何度も言ったろう、植物は人間を監視してるって。それに、花見ってソメイヨシノだろ?」
「ああ、ソメイヨシノが一番だ」
「お前、ソメイヨシノって全てがクローンって事知ってるか?」
「えっ? クローンって? どういうことだ?」
「ソメイヨシノは、遺伝子解析の結果全てが同じDNAだと分かったんだ。全部が一つの木から挿し木なんかで増えた同じものなんだよ、全てがだぞ、全部が一個体なんだ」
「そうなのか…」
「そうだ、だからソメイヨシノは監視機能として最高レベルの植物だと、俺は見てる。毎年この季節、花見と称してソメイヨシノの下に集まる日本中の、いや今や海外も含めて数えきれない程の人間を全て一つの個体が監視しているんだ。奴は相当な情報量を持っている筈だ。人間一人ひとりを監視し記録して管理してる。何年分もだ。そしてその情報は必要な分だけ植物全体で共有されるんだ。おそらくソメイヨシノは日本に於ける人類監視の司令塔だ」
「…」
「気を付けろよ」
「え? 何にだ?」
「目を付けられないようにだ。目を付けられるとピンポイントで狙われる可能性もある。お前、花粉症じゃないと言ってたな。下手に目を付けられれば今年か来年、先ずは花粉症を発症する可能性もあるぞ。今後は迂闊にソメイヨシノに近づくな」
「目を付けられるって…」
「ほんとにあるんだよ。どんな人間をターゲットにするのかはハッキリ分かってはいないが、俺の感じではおそらく二酸化炭素排出に反対してる奴は間違いなく監視対象だと思う」
「二酸化炭素排出に反対? それ今の風潮じゃないか」
「ああ、そうだ。人間は金儲けの為に、環境問題だという建前で二酸化炭素排出を止めようとしてるが、考えてみろ、二酸化炭素が無ければ光合成出来ないだろ。この動きは正に植物にとっての死活問題だ」
「それは…まぁ、そういうことになるな。光合成しなきゃ、植物は生きられないしな」
「そうだ。花粉症が酷くなってきたのも、ちょうど世界がそういう動きを始めた頃からだ」
「そうなのか…」
「とにかく、もうソメイヨシノには近づかない方がいい。奴は強大すぎる」
「あ、ああ…」
部屋にコーヒーのいい香りが漂ってきた。
「俺がこの事務所に来るのは、この事務所は殺風景で花の一つも置いてないってところが気に入ってるんだ。監視されずにいられるからな」
望月がポツリと言った。
「そんなに神経質になる話なのか?」
「当たり前だ。俺は植物の人類絶滅計画を何とか阻止しようと動いてる。各所を啓発して回ってるんだ。今、これが植物にバレたらおそらく俺はピンポイントで狙われる」
真剣な表情でそう言う望月に、私は何も言えなくなった。
黙ったまま、コーヒーを出す。
コーヒーをすすりながら、望月は続けた。
「この命令系統の頂点にいるのが誰なのか、いやどの植物なのかは今のところ分からないが、おそらく樹齢の永い木のどれかがそうなんだろうと思う。そういう木はだいたい御神木にされて切られないようになっているからな。何とか植物ネットワークの頂点にいる奴を特定して、そいつに話を付けなきゃならん。この計画を止めるようにな。勿論その前に、どうすればそいつが、いや植物全体がこの計画を止めてくれるのか判明させなきゃならない」
「頂点…御神木なんて日本中に沢山あるぞ。特定なんてできるのか?」
「ヒントはある。情報通信や命令通信の中継役としてどうしても外せない奴がいるようなんだ。植物ネットワークとしては切られたら困る『中継木』とでも言うような木だ。よくあるだろう、この木を切ろうとすると事故が起きるとか死人が出るとか言われる、いわゆる『曰く付き』という木が。あれなんかは中継木だと俺は睨んでる。切ろうとした人間はピンポイントで毒素を混ぜた花粉を浴びせられるんだな。だから自然にそういう噂が立って切るに切れなくなる。その中継木を手繰っていけば頂点に近づけると、俺は踏んでる」
私は、望月の言う事がますます本当に思えてきた。
「お、俺は目を付けられたかな…」
「分からん。お前、毎年花見なんかするのか?」
「いや、もう何年もしてない」
「そうか。じゃあお前に関してソメイヨシノが持っている情報は何年か分かが欠落している。奴がお前を何か気にしたのなら、手下を使ってもっと詳しくお前を監視する筈だ」
「手下?」
「雑草だよ、雑草。人間が余り相手にしない植物。雑草は人間があまり気にしない事を利用し、隠れて人間を監視するんだ。忍者みたいなもんだな。ほら、昔は忍者の事を『草』と言ってただろ。文字通り草は監視係だ」
「雑草なんてどこにでも生えてるじゃないか。俺はどうしたらいい?」
私はさっきドアのところで見た小さな花を思い出していた。
あれは私を監視する為に咲いたのか? とすると私は今、危険な状況にあるのかも知れない。
「特になす術はない。ただ、二酸化炭素排出削減に協力的な行動は避けた方が良いだろう」
「そ、そうか…」
「その言いっぷりだと、少しは俺の話を信じる気になったようだな」
望月はカバンを開け、中から折りたたまれた紙を出すとテーブルに広げた。
それは日本地図だった。
その地図の所々に赤ペンで点が付けられている。
「この赤印が、さっき言った『曰く付き』の中継木だ。俺が調べた分だけだがな」
その赤印は日本の至るところにあった。
「こんなにあるのか」
「ああ」
「しかもバラバラだ」
「一見そう見えるだろう? だが、よく見ると、割と集中しているところと疎らなところがあるように見えないか?」
「あー、確かにそう言われれば、九州と青森に集中していて本州の真ん中辺りは少し疎らに見える」
「そうだろ。もしこれが本当に中継木だとしたら、各地の情報が集まってくる程、中継木は集中する筈だ。ということは、命令系統の頂点はこれらが集中しているところにあるという事になる。つまり九州の何処かか青森、若しくはその両方だ」
「両方って、それじゃ頂点の木は一つじゃないのか?」
「それは分からん。植物の世界が完全なピラミッドで世界中の植物の頂点に立つ木か何かが世界のどこかにあるかも知れないし、各エリアの代表が合議しているのかも知れない。だが雑草も含めれば植物なんてそれこそ無限にあるから、少なくともある程度のエリアを纏める木がある筈だ。そのエリアの頂点木だな。だからそのエリアが日本全体に及ぶのか、北日本と西日本とに分かれているのかでエリアの頂点木が一本の場合と二本の場合があるって事だ。そしてそれは別にどっちでもいいんだが、願わくば、植物の組織がそういうエリアの頂点木による合議制であって欲しい。もし、世界の植物の頂点に君臨する奴がいたら…こいつが木なのか何なのかは想像もつかないが、もしそういう組織なら、厄介な事になる」
「確かに」
そんなモンスター級の植物なんてのがあったら怖い。
そしてそれがアマゾンの奥地になんかいたりしたら絶対探し出せない。
そもそも近づきたくない。
「でだ、俺は来週、取り敢えず青森へ行く。青森の御神木をいくつか訪ねようと思ってる」
「そこでどうするんだ?」
「問い掛けるのさ。植物は人間の言葉を理解している筈だ。だから俺の問い掛けは植物に通じると信じて問い掛ける。我々人間はどうしたらいいのかとな。まぁ、勿論、御神木を祀る神社の神主の力も借りるがな」
「木は答えてくれるんだろうか?」
「分からん。でも、俺の問い掛けが通じたなら、何かの形で教えてくれるかも知れない。と言うかそれに期待するしかない」
「そうだな」
「どうする? お前も行くか?」
「行く、俺も行く」
「仕事は良いのか?」
「何とかする」
「そうか」
それから私たちは青森行きの日程を打ち合わせ、東京駅での待ち合わせ場所と時間を決めた。
この時私には使命感のようなものが生まれていた。
スマホが震えたのは、私が東京駅の待ち合わせ場所で望月を待っていた時だった。
「頼む」
スマホから聞こえたのは、はぁはぁという苦しそうな息に混じった、声にならない望月の声だった。
望月が今朝、急性肺炎で入院した。
朝、急に呼吸が苦しくなり救急車を呼んでそのまま入院したという。
数日前にビルの入り口に咲いた一輪の花が監視していたのは私ではなかったという事か。
望月の行動は監視され青森行きが阻止された。
急がなければならない。
私は周りを見回し、私の動線を監視する植物が無い事を確認してから新幹線のホームへ向かった。
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