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13 決意
美鈴の母が学校に乗り込んで来たのは、その次の日のことだった。
「娘を侮辱した生徒はどこですか!?」
彼女は激昂した様子で教師に詰め寄っていた。
教師たちは戸惑いながらもどうにか彼女を落ち着かせようと努めていたが、彼女の怒りは収まるどころかますます激しさを増しているようだった。
どうやら、あの噂話が美鈴の母親の耳にも入ってしまったらしい。そして噂を流した生徒が、由佳であることもわかっているようだ。
それからほどなくして由佳の親も学校に呼び出され、両者の間で激しい口論が繰り広げられた。美鈴と由佳もその場に呼びつけられて、あの噂話についての説明を求められた。
「――なぁ、あいつらどうしたんだ?」
「由佳が桜沢の噂を広めただろ。それで親が乗り込んできてさ」
美鈴の母が学校に乗り込んで来たとの報せはあっという間に広まり、教室内は騒然としていた。親同士の話し合いはまだ続いているようだったが、どうやらまだ解決には至っていないらしい。
何人かの生徒が様子を見に校長室へ向かっていたが、彼らはすぐに門前払いを食らってしまった。校長室前の廊下は両方の母親が怒鳴り合う声、それに由佳の泣きわめく声が聞こえてきたと言う。
まさか美鈴のことで親がやって来るなんて、誰も――美鈴本人でさえも思っていなかったことだ。
あの噂話を流したのは由佳だということは周知の事実だったし、彼女と一緒になって美鈴を非難していた生徒の中には、いつ自分たちにも火の粉が降りかかってくるか恐れて冷や汗を流している者もいた。
昼休みが終わる頃になって、ようやく話し合いは一段落したようだった。美鈴の母は娘を連れて去っていき、由佳も同じように親に連れられて帰っていった。
由佳の友人たちは心配そうに彼女を見送っており、由佳はめそめそと泣き崩れながら「あいつが、あいつが」と美鈴の名前を口にしていた。
この件の被害者は美鈴なのに、どうしてだか由佳の方が被害者として扱われているような雰囲気だ。
(なんだよあれ)
もやもやとしたものが胸の中に満ちていくのを、直哉は静かに感じていた。
その日の放課後は、部活にも行かずにそのまま帰ることにした。美術部の様子は気になるけれど、今の気持ちのままでは魔女についての調査も捗りそうにない。
「――?」
教室を出て一人で歩いていたら、ふと不思議な気配を感じた。
こういった感覚には元から鋭敏な方だ。だが、今回のそれは普段感じるような霊的な何かではない。
近いとは思うけど、もっと別の、奇妙な気配だった。
(こっちかな?)
直哉は廊下の角を曲がり、その先の階段を上っていった。
二階の廊下を歩いていくと、少し進んだところにある空き教室の中から声が聞こえてくる。
教室の扉は僅かに開いていた。
興味本位で隙間から中を覗いてみると、そこには高橋香菜子と福島修司の姿がある。二人はぴりぴりとした空気の中で、何かを話し込んでいる様子だった。
「僕が何を言いたいのかわかるよね?」
修司が苛立ったような口調で言うと、香菜子は怯えたように肩を揺らした。修司の声は、ひどく冷たくて威圧的なものだ。到底、恋人に向けるものではない。
「……ごめん」
香菜子は消え入りそうな声で謝罪する。
「謝るってことは、悪いことをしたって自覚があるんだよね?」
修司の冷たい声は続く。
「こっち向けよ。ほら」
修司が手を伸ばし、香菜子の髪を乱暴に引っ張った。
「痛っ……」
香菜子の顔が苦痛に歪む。修司は意地の悪い笑みを浮かべると、無理矢理自分の方を向かせた。
「あのさ、本当に悪いと思ってるのなら態度で示してくれるよね?」
「……」
香菜子には抵抗する素振りはなく、されるがままになっている。
彼は香菜子の制服の襟元に手をやると、リボンタイを乱暴に緩めて外した。香菜子は僅かに体を震わせるが、やはり逃げようとはしない。
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