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「カナは僕のことが大好きだもんねぇ。僕の言うことなら何でも聞くもんね?」
香菜子は小さく頷いた。修司はそれを見て満足そうに笑う。
「カナはいい子だね。でも僕は怒ってるんだ。わかる?」
修司は香菜子の頬を優しく撫でる。直哉は教室の扉の前に張り付いて、二人のやりとりに耳を傾けていた。
「このまま別れたっていいんだよ?」
脅すような口調で修司が言う。香菜子が息を呑むのがわかった。
「修司、それは」
香菜子はか細い声で何かを言おうとしていたが、それよりも先に修司は強引に香菜子に口付けをしていた。
(おいおいマジかよ)
直哉はつい顔をしかめてしまう。
修司は香菜子の唇を貪るようにキスを続けている。彼の手つきはだんだんとエスカレートしていき、とうとう香菜子の制服に手を掛けた。
「……いや」
香菜子が僅かに抵抗する素振りをみせる。
「は? 何言ってんだよ」
不機嫌そうに修司が吐き捨てる。
「や、やめて……お願いだから」
「うるさいな、さっさと僕の機嫌を直せよ!」
彼は乱暴に香菜子の制服のボタンを外そうとする。
さすがに見ていられなくなって、直哉はたまらず空き教室へと飛び込んだ。
「ちょっと待ちなよ!」
直哉は大声で叫び、香菜子から修司を引きはがした。ほとんど何も考えず、ただ衝動的に行動していた。
「あなた、どうして?」
目を白黒させる香菜子を背中に庇うようにして直哉は修司の前に立つ。いきなりのことで、修司も呆気にとられたように直哉を見上げていた。
「なんだよお前、邪魔するな」
修司が凄んでくるが、直哉は負けじと彼を睨み付けた。
「さすがにそうもいかないよ。先輩さ、自分のやってることわかってんの?」
「部外者が口出ししてくんな」
「確かに僕は部外者だよ。それこそ、先輩たちがどこでナニしようが、その行為自体を咎める権利なんてない」
「じゃあ黙ってろよ!」
「やだね。先輩が今してることは、さすがに見過ごせないもの」
「はあぁ? お前何様のつもりだよ?」
「別に何様でもないよ。けどこっちは高橋先輩が嫌がっているのを見ちゃっているわけ。それを見過ごしちゃうのって、ちょっと無理でしょ」
「るせーな、いいから引っ込んでろ!」
修司が声を荒らげる。直哉は怯むこともなく、相手の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「ねぇ、落ち着いて?」
香菜子はハラハラした様子で成り行きを見守っている。
「ほら、先輩行くよ!」
直哉は香菜子の手を掴むと、そのまま歩き出した。
「カナ!」
修司が香菜子の元へと駆け寄ってくる。彼は必死の形相で香菜子の肩を掴んだ。
「おい、勝手なことは許さないぞ」
「やめて」
香菜子は泣きそうな顔で拒絶する。
「いいから言うことを聞け」
修司が香菜子の腕を引くと、彼女は怯えたような表情を浮かべた。その顔を見て、修司はますます苛立った様子で舌打ちした。
「なんだよ……ふざけやがって……!」
「先輩、早く!」
直哉は急かすように再び香菜子の手を引いた。香菜子は戸惑いながらも直哉と共にその場を立ち去ろうとする。
「――僕は、好きでもないのにキミと付き合ってあげてるんだよ」
唸るような声で、修司は恨み言を吐き出した。
香菜子はハッと立ち止まり、直哉も思わず振り返ってしまう。
修司は怒りに満ちた目で二人を睨んでいた。香菜子はその視線から逃れるように俯いてしまう。
「ごめんなさい」
彼女は謝罪の言葉を口にした。
直哉はそれ以上修司が何か言ってくるより先に、香菜子を連れてその場を離れた。
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