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14 それぞれの苦悩
直哉は疲れ切っていた。
がっくりと項垂れながらも、彼はぐるぐると思考を巡らせていた。
つい最近になって、ようやくのことで由佳との交際を解消した。このまま惰性で関係を続けていても意味がないと、ずっと前からわかっていた。
それでも実際に別れを切り出した時、由佳は納得いかない様子で直哉に食い下がってきた。
『やっぱりあの女のせいでしょ!』
彼女は悔しそうに叫んだ。
『美鈴ちゃんは何も悪くないよ。全部僕が悪いんだ』
『そんなの納得できない!』
由佳は叫ぶように言うと、甲高い声を上げて泣き出した。直哉は心が痛んだが、心を鬼にして毅然とした態度を崩さなかった。
『最初から由佳との関係は本気じゃなかったんだ。だからもう、これ以上は付き合えないよ』
『本気じゃないってどういうこと? 遊びだったってわけ!?』
頷きはしなかった。
だってよくよく思い返してみれば、遊びどころか彼女に対してろくに興味すら持ち合わせていなかったのだ。
『……ごめん』
『ごめんじゃないでしょ!』
平手打ちが飛んできた。
直哉は避けなかった。彼女の気持ちを考えれば、この程度は当然の報いだと思えたから。
終わった恋愛への当てつけのために彼女と付き合った。
好きでもないのに恋人ごっこを続けて、由佳を利用していたのだ。
「だから僕が悪いってのは充分理解しているんですけどぉ、その後クラスの女の子たちからまるで僕が極悪人であるかのように言われ放題だったんですよー」
直哉が言うと、新太はうんざりとした様子で深々と息を吐いた。
「お前のそれは自業自得だろ」
「わかってますよ。なんなら、別れ話の時に僕は全力で悪役になるように徹したくらいですからね」
お弁当箱のご飯を箸でつつきながら、直哉は愚痴を零していた。
その日の昼休み、直哉は以前と同じように新太を強引に誘って校舎裏で一緒に昼食を取っていたのだ。以前と違うのは、ここに美鈴の姿がないことだ。
声は掛けたのだが、美鈴はいつも見せている傍若無人な姿からは想像もつかない程にしおらしく、「今日はいいや」と言って断ってきた。
パパ活の噂を流されている頃は、平気そうにしていたどころか、むしろ周囲を小馬鹿にするような、どこかあの状況を楽しんでるような節さえあったのに。
どうやら母親が学校に乗り込んで来たあの一件が、精神的に堪えてしまったようだ。
「つーかなぜその話を俺に聞かせた」
呆れたように新太は言い、菓子パンにかじりついた。
「残念ながら僕は今クラスのみんな……特に女の子たちを敵に回してしまったので、味方をしてくれる人が全然いないんです。男子は男子で、僕が由佳と別れたことをからかってくるような奴らばかりだし」
「だからってなんで俺に相談するんだよ」
「クラスの連中よりも先輩の方が信用できそうだったので。自慢じゃないけど僕には友達がたくさんいますよ。でもそれって広く浅くの付き合いだから、いざという時に相談しづらいんですよね」
言いながら、直哉は弁当箱から卵焼きを箸でつまむ。
さすがは自分の手作り弁当だ。程よい甘さで、ご飯がいくらでも食べられそうだ。
「お前は、その由佳って子と別れたのを後悔しているのか?」
「それはない。むしろいい加減な気持ちで彼女の告白を受け入れたことを後悔していたから、ようやくのことで心に巣食っていたモヤモヤが晴れた気分です」
「そうかい」
「でも結局は、僕の都合で由佳を振り回していただけなんですよね。そう考えると、罪悪感で胸がチクチク痛みます」
直哉が言うと、新太は無言でまた一口菓子パンにかじりついた。
直哉もそれ以上は何も言わず、静かに食事を続けた。
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