14 それぞれの苦悩

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 こういう時、何か気の利いたことを言ってやれれば良かったんだけどなと直哉は思う。  明るく励ますべきなのか、それとも彼の悲しみに寄り添って慰めるべきか。よくわからない。  いくら友人が多いとは言え、これまで浅い人間関係しか築いてこなかった。だからこういった場面に遭遇した時は、他の連中に任せて自分は傍観していることが多かった。  安っぽくてありきたりな言葉を投げかけるのは簡単だが、それを言われても新太だって嬉しくないだろう。 「先輩、僕は今どのような反応をすればいいのでしょうか?」 「急にどうしたそんなこと言われた俺の方が反応に困るぞ」 「僕も今の話を聞いて色々と考えさせられまして。先輩を励ますべきか、それともそっとしておくのがいいのかとか」 「なんだそれ。お前にもそんな気遣いってできるんだな」 「見ての通り僕は天使のような心の持ち主なので」 「何言ってんだお前」  辛辣な声で新太は吐き捨てたが、その表情はどこか楽しそうでもあった。 「その気持ちだけで充分だよ。ありがとな」  そう言って、彼はその話題を締めくくった。  少しは気が紛れただろうか。そうだったらいいなと直哉は願いながら、今度は唐揚げを口に運んだ。冷凍食品ながらいい味だ。 「……あ、そうだ」  唐揚げを咀嚼し終えてから、直哉はふと思い出した。 「先輩。実は僕、福島先輩が空き教室で高橋先輩にナニしようとしているとこを見ちゃったんですけど」  新太は顔をしかめた。 「いやお前、さすがにそういうのを覗こうとするのはどうかと思うぞ」 「待って待って僕が下品な行為をしたみたいに言うのやめて。福島先輩は、高橋先輩に強引に迫ってたんです。だから僕はついそれを止めちゃったわけなんですけど」  そこで、直哉は一旦言葉を切った。 「あの時の先輩たちの様子、普通のカップルとはどこか違う雰囲気でした。何て言うか、高橋先輩が可哀想でした」 「そう、か」  直哉が訴えると、新太は難しそうな表情をしていた。 「あいつら、いつの間にか付き合ってたんだよな。前から仲がいいのは知っていたけどさ」 「水野先輩とあの人たちって、友達なんですよね?」 「友達……だった、奴らだよ」 「過去形?」 「ああ。今は、よくわからない関係になってしまった」  新太は、複雑な感情のこもった声で答えた。 「昔はよくつるんでいたのに、今じゃあろくに会話もしていないからな」 「ふーん。友情が自然消滅しちゃった感じ?」 「はは、どうだろうな」  新太は乾いた笑いをこぼした。 「話は変わりますけど……あの人たち、というか福島先輩が浅岡さんを目の敵にしている理由って、何か知っています?」  直哉が尋ねると、新太は表情を曇らせた。 「俺の、せいだ」  ぽつりと、新太は呟くように言った。 「あいつらにとって、俺が麗奈と一緒にいるのは裏切り行為みたいなもんなんだ。修司はミサを慕っていたからさ。俺がミサを忘れて、他の相手を選んだことが許せないんだよ」 「でもそれって、水野先輩は悪くないですよね?」  直哉は納得がいかなくて反論する。新太は何も答えてくれなかったから、直哉は更に言い募ってしまう。 「先輩はただ新しい恋を始めただけでしょ。浅岡さんだってあんなにいい子なのに、一方的な理由で嫌うなんて不条理なものを感じます」 「……桐島。もうこの話はやめようぜ」  新太は、静かにそう言った。
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