14 それぞれの苦悩

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 直哉とて、人の過去をほじくり返すような趣味はない。だからこそ他人の事情には基本的に首を突っ込まずにいたし、今回の件についても深く追及するのは気が引けていた。  でも、修司が麗奈を敵視する理由は知っておきたいと思ったのだ。  それに麗奈は先日、複数の男に襲われかけた。直哉が駆けつけてどうにか事なきを得たのだが、今後も同じことが起きないとは断言できない。麗奈を襲おうとした連中の裏に、修司がいるのではないか。  だから彼女が危険な目に遭うような原因を少しでも取り除いておきたいのだ。 「僕は浅岡さんが心配です」 「大丈夫だよ。俺が、あいつを守るから」 「うん……でも、水野先輩も気を付けてくださいね」 「わかってるよ」  それから二人は昼食を終えると、それぞれの教室に戻って次の授業の支度をした。  後でこの話を、美鈴にも共有しておこう。そう思って直哉はちらりと美鈴の様子を確認した。美鈴は相変わらず覇気のない顔で、ぼんやりと虚空を眺めている。  元々彼女は、こんな風に気だるげにしていることもよくあった。だから普段通りといえば普段通りの様子だ。  でも、なんだか今日はいつもと違う気がしていた。 「美鈴ちゃん、大丈夫?」  放課後、直哉は美鈴に声を掛けてみた。 「元気がないみたいだし、体調でも悪いの?」  直哉が言うと、美鈴は口元だけを歪めて笑みを浮かべた。 「やさしーねぇ」  どこか、皮肉っぽい口調だ。 「お察しの通り、今すっごいメンタルやられてる」 「やっぱり……この間の、あれのせい?」 「そ。あれのせい」  美鈴は、ふーっと息を吐く。 「母さんにも困ったもんだよね。いくらあたしが寛大な心を持っていても、さすがにキレそうになるっていうか」 「それだけ美鈴ちゃんが大事なんだよ」 「そうだろうね。母さんにとってあたしは、目に入れても痛くないくらいの可愛い可愛い一人娘なわけだし」  美鈴は肩をすくめながら言うと、直哉の顔を覗き込んで来た。 「ね、うちくる?」  美鈴は小声で囁いた。 「は? いきなりどうしたの?」  直哉は慌てて周囲を見渡した。  放課後とは言え、まだ教室には生徒が残っており、いつ誰がこっちを見てくるかわからない。それこそあんなことがあったのだ、聞き耳を立ててくる連中もいるかもしれない。 「どうせ今日も部活サボるんでしょ。いいじゃんいいじゃん、話し相手になってよ。ね?」  美鈴は可愛らしく小首を傾げると、直哉の袖をきゅっと掴んだ。  最近彼女の様子はおかしかったし、このまま一人にしておくのは心配だ。それに彼女の言うように、部活に出る気分でもなかったのでサボろうかと思っていたところだ。 「しょーがない。ちょっとだけお邪魔しようかな」 「よし決まり! さっさと帰ろ!」  美鈴はぱっと表情を明るくさせると、直哉の腕を引いて教室を出るのであった。
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