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退屈しのぎに、直哉は部屋の中を見渡した。女の子の部屋に入るのは、これが初めてのことではない。それこそ元カノである由佳の部屋には、何度か招いてもらったことがある。
美鈴の部屋には特に変わったものはない。インテリアもシンプルなものだし、可愛らしい小物なんかもない。掃除はよく行き届いており、綺麗に整頓されている。
なんとなく、美鈴の部屋はもっと乱雑なものだろうと勝手に想像していた。もしかしたらあの母親が定期的に掃除をしてくれているのかもしれない。
「!」
なんとなく部屋の中を眺めていたら、ふと本棚に目が向いた。
そこには何冊かの漫画が並べられていたが、一番隅っこに、小さなアルバムが収められているのがわかった。
直哉は何気なくそのアルバムを手に取ると、中を開いてみる。
一枚めくるごとに彼女の成長が見て取れた。幼稚園の入園式や小学校の入学式、運動会に授業参観など、様々な行事の記録がある。中には幼少期の彼女が祖母に抱っこされている写真もあった。祖母の膝の上で、美鈴は嬉しそうにしている。
あのお婆さんは孫のことが心配で成仏できず、この世にずっととどまっていた。それを安心させてあげる為に美鈴の彼氏のふりをしたのが、全ての始まりだったのだ。
(あれ?)
直哉がページをめくっていると、不意にある写真に目が留まった。
そこには満面な笑顔を浮かべてピースサインをしている幼い美鈴と、彼女の肩に手を置く体格の良い男性の姿が映っていた。
直哉がそれからもアルバムのページをめくってゆくと、同じ男性と一緒に映っている写真が次々と出て来た。
どの写真も、美鈴は幸せそうに笑っている。
「うわー、女子の部屋を漁るとか最低ー」
そこへ、美鈴の声が割り込んできた。手にスナック菓子の袋を持っている。
「女子の部屋に一人きりにしておいて何言ってるわけ?」
直哉はアルバムを閉じると、元あった場所へと戻す。
美鈴はにんまりとした笑みを浮かべて再びベッドに腰を下ろした。
「昔のあたし可愛いでしょー? 母さんの愛情たっぷりで育ってるからね」
「うん、でもさ」
「ん? どした?」
美鈴が首を傾げる。
直哉は、少し躊躇った後に口を開いた。
「いや。いいや、別に」
「なんだよ気になるだろー言えよー」
「今日はキミの話に付き合う為に来たんだから、僕の話はいいよ」
「ふぅん? ま、いいけどさ」
美鈴はスナック菓子の袋をバリッと開けた。直哉も彼女の隣に腰を下ろして、カップに口をつける。
「美鈴ちゃん、最近元気ないよね」
それから直哉は、少し視線を落としながら呟いた。
「……ごめん」
「あ? どうして桐島が謝るんだよ」
「色々と元を辿っていくと、僕がいい加減な気持ちで由佳と付き合ったせいで、キミを傷付けたんじゃないかなって」
「因果関係としてはそうかもね。でも、あたしは桐島を恨んだりしてないよ。むしろあんたは、勝手に自己批判して勝手に安心しているように見えるけど」
「安心って」
直哉は不服に思ったが、確かにそうかもしれないとは思う。自分を卑下することで、心の平穏を保とうとしていたのかもしれない。
直哉が押し黙ると、美鈴はスナック菓子を噛み砕いてから言った。
「あたしの母さんが、学校に乗り込んだわけでしょ。そんなことしてくれなんて一言も頼んでないのにさ」
「でもお母さんがああして怒ったのは、全部キミを思ってのことだよ。美鈴ちゃんが心配だから、ああいう風にしたんだろうなって」
「わかってるよ。でも、あれ以来母さんとギスギスしちゃってさ。だから、自分の部屋にこもってるのが一番落ち着くの」
それこそ、家族がいない時間でもリビングにいるより自室にいた方が精神的に楽なのだと、美鈴は語った。
「でもさ、いいじゃん。親が子供の為に行動してくれるのって。僕の親はそういうこと、してくれないと思う」
「放任主義ってやつ?」
「てわけでもないよ。ただ忙しくて、ほとんど家に帰って来れないだけ。父さんも母さんも、僕のことをどれだけ知っているんだろう」
直哉が遠い目をすると、美鈴はスナック菓子をひとかじりした。直哉も同じように菓子に手を伸ばすと、もぐもぐと噛み砕いていく。
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