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気づいたときには幼い子供のように僕は泣いていた。蛇口が壊れてしまったように、涙をこらえることができないまま教室へと向かう。合格発表の翌日に泣いて現れた僕を見て、クラスメートは落ちたと勘違いしたのだろう。皆同情の眼差しで僕を見た。そして同時に、驚いてもいた。
当然だ。「通行人A」は泣いたりしないから。
けれども、僕はそれでも構わず泣き続けた。顔をぐちゃぐちゃにして。だって僕はもう「通行人A」ではない。
桜の花は嫌いだ。僕を「通行人A」から「氷川英人」にしてくれた人を失った苦い記憶をこれから毎年呼び覚ますに違いないのだから。
でも、それで良い。僕は胡桃沢さんのことを一生忘れたくない。
胡桃沢さん。あの感情豊かなありのままの「胡桃沢奈緒」になれる日が、君にもきっとやって来るから。そして、いつかこの先の長い人生のどこかで必ず再会できるって僕は信じているよ。
そのとき君は羨ましいほどハッピーな毎日を送っていて、顔中を笑顔にしてこう叫ぶんだ。
「ヒー君、久しぶりっ!」
<FIN>
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