通行人Aと恋を叶える伝説の桜

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 胡桃沢さんというのは不登校の女子生徒だ。元々休みがちだったのだが、確かここ二週間くらい登校していない。理由はよくわからない。成績も上の方だったし、皆ともうまくやっているように見えた。僕が知る胡桃沢さんはクールで大人しい印象の優等生だ。 「わかりました。私に任せて下さい」  二年生のとき、まだきちんと登校していた胡桃沢さんは文化祭実行委員を押し付けられても、嫌な顔せずにその役割をやり遂げていた。  僕は「進路希望調査票」と書かれたプリントに視線を向けて尋ねた。 「何で僕なんですか?」 「氷川くん、胡桃沢さんと同じマンションでしょ。悪いけど、お願い!」  由佳ちゃんはそれだけ言うとプリントを笑顔で僕に押しつける。そうして、くるっと椅子を回して、デスクワークに戻ってしまった。  ……面倒臭い。  僕は下校中、電車に揺られながら内心そう毒づいた。  胡桃沢さんは高校入学と同時の二年余り前に引っ越して来たから、同じマンションと言っても幼馴染というわけではないし、ほとんど面識もない。  しかし、モデルさんが秋冬コーデを笑顔で身にまっている車内の中吊り広告に目をやったとき、前々から感じていた胡桃沢さんの将来への不安がふと胸によぎった。  僕らは受験生で九月ももう終わりにさしかかっている。この時期に高校を休むなんて……?
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