暗澹

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「すみません」とアラタに言われる。  変わってるって言ったのに、しおらしく謝るなんて可愛いところもあるもんだ。  そう思って大丈夫だと言いかけた時「すみません。喉が渇きました」と続けられた。  ……こいつ、マイペースすぎる。  目を細めてアラタを睨む。  アラタは気にもとめず、ニッコリと綺麗に口角をあげる。  うつむいてなんなんだよと口の中でぼやき、ゆっくりと立ち上がる。  あき缶や衣類、空のカップ麺の容器を、音をたてて蹴とばしながら玄関横の台所まで行く。  隅に置いてある昭和の匂いが漂う緑のツードアタイプの冷蔵庫を開けた。  膝をついて中を覗き込むが、缶ビールしか入っていない。  仕方ないと2本手に取り、戻る。  手の拘束と目隠しをとってビールを手渡す。 「これは予想外、寝起きにいきなりビールですか? 向え酒ってやつですか?」  手首を気にしながらブツブツと言ってくる。  被害者のくせに怖がりもしない……。  インタビュー記事などを読んでいて、ある程度変わった奴だとは思っていたが……これほどとは。 「それしか、ねえんだよ」 「出来れば素面でいたいのですが、せっかく殺されるのに」  立っている俺を見上げてくる。    整った顔の……どちらかといえば女顔で黙っていればまさに『美人』って言葉が似合いそうな、俺の憧れのアラタ。  その男に……見つめられれば、やはり胸が高鳴る。    聞いてます? と催促されハッと我に返り、ドキドキを追い出すように大きく溜息をついた。  何か言いたそうなアラタの気配をかき消すように、プシューと自分のビールをあけて飲みくだす。 「あのお、お水ください」  あー、面倒くさいなあ。  ビールを乱暴にコタツの上に置き、台所へいって流しの中に入っているコップのうち、一番綺麗そうなコップに水道水を注ぎ、持ってくる。 「ほら! もう文句いうなよ」これ以上は何も言うなと威圧して言うが、気にもとめていないように目を細めて微笑んでいる。  両手で慎重にコップを持ち、コクコクと飲み干す。  それを見届けてから、自分もベッドのはしに腰掛けてまた一口ビールを飲む。
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