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暗澹
ドアを静かに閉め、震えながら後ろ手で施錠する。
コンクリートのたたきにまで転がってきている空き缶を足でよけながら、靴を脱いだ。ゴミの間を慎重に歩くたびにミシミシと古い床が鳴る。
重い。早くおろしたい。
何日か前に着た服が散乱する簡素なパイプベッドの上に背負っていた男を放り投げるように降ろす。
ドサッと大きい音がしたが、男は目を覚ます様子もなかった。
……疲れた。男から靴を脱がし、玄関の方へ投げ捨てる。
俺は上がった息を整えながら、用意していた結束バンドとタオルで男を拘束する。
ベッドの両端に手足を結び付け、男を大の字にする。目はタオルで覆い隠して一息ついた。
「はあ……これで、これで死ねる……」
数十年程前に買った万年こたつの中に身体を突っ込み横になる。その辺に落ちていた衣類を丸めて枕替わりにして頭を乗せたらすぐに意識がなくなった。
「うわあ、目を開けても真っ暗だ。停電でしょうか?」
誰かの声で目が覚めた。昨夜もこたつで寝てしまったのかと、きしむ身体を起こす。
腕を伸ばすとバキッと骨が鳴った。
コタツに入ったままボンヤリとベッドに背を預け、右側を見る。半分開いたままになっているカーテンの間から明るい光が見える。
随分、陽が高いな。
まだ眠かったがトイレへ行こうと立ち上がった。
視界の隅に何かが動いた気がして、そちらを見てビクッとする。
「……う、お」
小さく声がもれ、慌てて口元に手をあてた。
ベッドには成人男性が縛られて大の字になっている。
一瞬何が起こったのかと固まってしまったが、すぐ思い出して小さくため息をつく。
そうだ、昨日この男を拉致したんだった。
とうとう実行してしまったんだ。
……いいんだ。これでいい。
眠気から急激に覚醒した脳に言い聞かせる。
こんな息苦しくて、生きづらい世の中なんて。
終わりにするんだ。
俺がいてもいなくても、何もかわらない。
それなら居たくない。
「手も足も動きません。どういう事でしょうか? 参りました」一人で話し続ける男の頭側へ行き、見下ろす。
「うーん、目を開けても真っ暗だと、開けているのか閉じているのかわかりませんね」
ハハ、なんでわかんなくなるんだ? 可笑しくなって笑い声がもれた。
「ええ? 誰かいます? それとも僕が笑いました?」首だけをキョロキョロと動かしている。
……なんで自分が笑ったか他人が笑ったかわからないんだ? 可笑しいを通り越して、ゾッとした。
知っていたが、やっぱりヤバい奴なのだろうか?
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