あと5分で始まる恋

3/3
前へ
/3ページ
次へ
それならどうして、美沙と付き合ったりしたの? 突然の告白は、私の心の余裕すらも奪ってしまった。 「美沙と別れたのは、俺がお前のことを好きだって、美沙が気づいたからだ」 「嘘」 美沙には一度だって、私の恋心を打ち明けたことはない。 「あいつは、俺が浅野を好きだってことも、浅野が俺を好きだったっていうことも、最初からわかっていて、俺に近づいてきたんだ」 嘘、なにそれ。 美沙は私の気持ちを知りながらも、自分から柊木くんにアプローチしていったの? 信じていた人からの裏切りが突然露呈されて、頭が軽くパニックになる。 「だからって言っても、もう私たちはここからいなくなるんだよ」 柊木くんの言っていることが本当なのだとしたら、どうして今になってそんな告白をしてくるの? ずるいよ、こんなの。 「今日という1日は、今日この瞬間を逃したら、もう二度と戻ってこない。だから俺は、浅野との恋をなかったことにはしたくない」 柊木くんの言葉を聞きながら、私はもう一度校舎を見つめた。 「私も今日という日を最後にはしたくない。でも、柊木くんとの恋は、最後の恋にしたい」 柊木くんが、私の頭をポンと撫でる。その表情はとても、優しかった。 「廻り道、しちゃったな、俺たち」 「そう? そんなことないよ」 だって、美沙が柊木くんと付き合っていたから、私の想いはずっと、不完全燃焼のままだった。 きっと完全に燃え尽きていない恋だったから、最後にもう一度花を咲かせたいと願ったのだと思う。 「そうか? まぁ、そうだな。じゃあ、今日から俺たち恋人との同士ってことでよろしく」 「よろしくお願いします」 「なぁ、5分でいいから、教室とか、体育館とかで、写真撮らないか?」 「きっと、5分じゃ足りないね」 私たちは、まだ誰もいない校舎の中へと、手を繋ぎながら歩きはじめた。 fin
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加