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もうこれが、最後なんだ。
そう思いながら、私はしみじみと校舎を見つめた。
いつもより、1時間早く登校した校舎は、まだ誰も登校している様子はなく、静まり返っている。
前日に用意されていた、『第35回卒業証書授与式』という看板を、私はなんとなく写真に収めた。
3年間通った高校。初めてこの学校の門をくぐったときは、それこそ胸いっぱいの期待と、ほんの少しの不安を抱えていたっけ。
新しい友だち、新しい生活、そして、新しい恋。そのどれもに、ドキドキと期待していたはずなのに、私の3年間は主役にはなれなかった3年間だった。
好きになった人は、いつも友だちと同じ人で、その人はいつも私じゃなくて、友だちのことを好きになってた。始まる前から終わる恋に、いつもひとりで泣いてた。恋の舞台にあがっても、私はいつも脇役だった。
「おはよ、浅野」
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこには3年間同じクラスだった、柊木くんが立っていた。
「おはよう、柊木くん」
柊木くんは、この高校に入ってから、私が初めて言葉を交わした男の子だった。
ただそれだけの関係だ。それ以上でもなければ、それ以下でもない。柊木くんは、私の友だちの美沙と、1年生のときに半年ほど付き合って、2年生になってすぐに別れた。今は特定の誰かがいる気配はなさそうだったけれど、私にとって、友だちの元カレという存在は、好きという想いを伝えるには、とてもハードルが高かった。
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