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それならどうして、美沙と付き合ったりしたの?
突然の告白は、私の心の余裕すらも奪ってしまった。
「美沙と別れたのは、俺がお前のことを好きだって、美沙が気づいたからだ」
「嘘」
美沙には一度だって、私の恋心を打ち明けたことはない。
「あいつは、俺が浅野を好きだってことも、浅野が俺を好きだったっていうことも、最初からわかっていて、俺に近づいてきたんだ」
嘘、なにそれ。
美沙は私の気持ちを知りながらも、自分から柊木くんにアプローチしていったの?
信じていた人からの裏切りが突然露呈されて、頭が軽くパニックになる。
「だからって言っても、もう私たちはここからいなくなるんだよ」
柊木くんの言っていることが本当なのだとしたら、どうして今になってそんな告白をしてくるの?
ずるいよ、こんなの。
「今日という1日は、今日この瞬間を逃したら、もう二度と戻ってこない。だから俺は、浅野との恋をなかったことにはしたくない」
柊木くんの言葉を聞きながら、私はもう一度校舎を見つめた。
「私も今日という日を最後にはしたくない。でも、柊木くんとの恋は、最後の恋にしたい」
柊木くんが、私の頭をポンと撫でる。その表情はとても、優しかった。
「廻り道、しちゃったな、俺たち」
「そう? そんなことないよ」
だって、美沙が柊木くんと付き合っていたから、私の想いはずっと、不完全燃焼のままだった。
きっと完全に燃え尽きていない恋だったから、最後にもう一度花を咲かせたいと願ったのだと思う。
「そうか? まぁ、そうだな。じゃあ、今日から俺たち恋人との同士ってことでよろしく」
「よろしくお願いします」
「なぁ、5分でいいから、教室とか、体育館とかで、写真撮らないか?」
「きっと、5分じゃ足りないね」
私たちは、まだ誰もいない校舎の中へと、手を繋ぎながら歩きはじめた。
fin
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