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プロローグ
死神は途方に暮れて街を歩いていた。
そんな彼は、人間でいうところの二十代前半の男の姿をしている。漆黒のスーツを着用し、髪の色もスーツと同じ黒色。
短髪ではあるけれど、内面の自信の無さを隠すかのように、長い前髪が死神の瞳を覆っている。
時刻は夕暮れ──。
日が沈み、空が深い藍色に染まり始める頃。ふと、優しく光る橙色のランプが死神の目に入った。
まるでその光に引き寄せられるかのように足を運ぶと、そこには珈琲店があり、こんな張り紙が貼ってあった。
【あなたの話を聞きます。
ただ聞くだけ、何も解決いたしません】
そして紙の下の方に『温かい珈琲をお出しします』と、手紙の追伸のように小さく記されていた。
何をやっても上手くいかない。焦燥とやるせなさでいっぱいだった死神は、思わずその扉に手を伸ばす。
「帳珈琲店」
店の名前を呟きながら、中へと入った。
--カロンッ。
扉についたカウベルが軽快な音を響かせると、カウンターテーブルの向こうから秀麗な男性が笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
店内はL字のカウター席が五つ、四人掛けのテーブル席が二つあり、今は女性が一人テーブル席にいるだけで他の席は空いている。
そして、壁際に備え付けられた書棚には沢山の洋書とランプが並べられており、間接照明の優しい光が店内を包み込んでいた。
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