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死神は緊張しながら、帳が好きなものを二つ描いた。
猫の顔とコーヒーカップだ。
一つに絞れず欲張って二つにしたせいで難易度が上がってしまったけれど、どちらも予想以上に上手く描けたような気がする。
「帳さん、できました!」
「僕もできましたよ」
帳へ送るオムライスを、自分の席の隣に置く。死神の前にも、帳が絵を描いたオムライスが差し出された。
「うわ〜!」
「僕は、あなたが優秀な死神だと信じているので」
オムライスのど真ん中に、美しい王冠が輝いている。先程の『冠付き』の話を聞いて、帳はこれを描いてくれたのだろう。その心遣いが、死神にはたまらなく嬉しかった。
「そしてこちらが、エスプレッソから作った本格的なソイラテです」
オムライスの横に、死神が大好きになったソイラテが並ぶ。
帳が言った。
食べること、話すことは、それだけで心を幸せにする。彼と出会って、死神もそれを何度も実感した。
もしもこの珈琲店が無かったら。
自分は今、どんな思いでこの世界にいたのだろう。この瞬間の幸せを噛み締めると、自然と目頭が熱くなり鼻の奥がツーンと痛みを主張した。
「有り難うございます」
「さあ、食べましょうか」
「はい」
カウンター席に並んで座り、いただきますと手を合わせる。その時、一際大きなカウベルの音色が店内に響いた。
--カロンッ。
小学校中学年ほどの年齢に見える男の子が、息を切らせて店内に走り込んで来る。
「いらっしゃいませ。こんな遅い時間にお一人ですか」
時刻は営業時間終了間際。
帳が男の子の前へと移動して、同じ目線までしゃがみ込んでそう尋ねる。
「こんばんは。不躾な質問で失礼いたしますが、このお店のマスターは、お爺さんだと兄に聞いていたのですが。変わってしまったのでしょうか?」
そう質問する少年は、死神と同じ全身黒のスーツ姿で、その胸には『金色の王冠のブローチ』が輝いていたのだった。
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